仕事をしない社員にどう対応するか|解雇・賃金カットの前に確認すること

問題社員
この記事の結論
  • 仕事をしない社員の賃金を下げる方法は法的に困難なうえ、解決策になりません。
  • 「仕事をしなさい」と文書ではっきり命じることが最初の一歩です。
  • 指示の出し方や処分の仕方は専門家に相談し、効果的に対応してください。

「仕事をしない」とは、具体的に何が起きている状態か

「あの社員はまた仕事をしない」——そう感じて対応に悩む経営者は少なくありません。

本記事でいう「仕事をしない社員」とは、出社はしているものの、頼まれた業務を拒否・放置する社員を指します。

今回はこの類型への対応を解説します。

そもそも出勤しない人や遅刻が多い人、成果が出ない人への対応、手を動かすが文句の多い従業員への対応は、別記事で扱います。

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弁護士のコメント

相談を受けた際、最初に確認するのは雇用契約書と賃金です。

あわせて、資料があるかどうかを問わず、「具体的にどんなことがあったのか」を伺っています。

「仕事をしない」という漠然とした感覚のままでは、指導も処分もできません。

その感覚の原因となっている具体的な出来事を特定することが、指導書などの証拠づくりの第一歩になります。

働かない分の給料を下げることはできるか

減給は解決策にならない

働きが悪いのだから給料も減らす、という発想は自然です。

しかし、作業の効率や成果の質が期待に届かないことを理由に、労務の提供が不完全であるとして賃金を減額することはできない、というのが一般的な裁判官の見解です。

実際に、一方的な基本給の引き下げ、口頭での同意を得たうえでの基本給の減額、「減給の懲戒処分」と称した基本給の大幅な減額は、いずれも裁判で効果が否定されたり、紛争につながったりしています。

弁護士のコメント

実際の相談では、すでに賃金カットや減額に踏み切ってしまっている会社が少なくありません。

給与を半分以下にした後、従業員から差額の支払いを請求された事案もあります。

減額した分は後から請求されるうえ、減額したこと自体が、会社の対応の不当性を示す材料として使われてしまいます。

仕事をしない社員を解雇するには何が必要か

結論

減給ではなく、次の順序で対応することが、解雇の可否を左右します。

  1. 業務を具体的に命じ、実行させる
  2. 言い訳が出ても、都度付き合わず、命じた業務の実行を求める
  3. それでも仕事をしない場合に、初めて懲戒処分や解雇などの検討に進む

何回注意したかという回数の問題ではありません。

「命じた」「従わなかった」「注意した」「このままでは解雇になると伝えた」「それでも変わらなかった」という流れを、記録で示せるかどうかが問われます。

以下、従業員数がいずれも20名以下で、指示に従わない営業担当者を解雇したにもかかわらず、結論が分かれた2つの裁判例を見ます。

解雇が有効とされた例

例えば、東京地裁平成29年7月18日判決(シリコンパワージャパン事件・労働経済判例速報2334号22頁)は、従業員20名弱の会社で、社長がメールの送信時に特定の社員をCCに入れるよう全営業担当者に指示したところ、ある営業担当者だけがこれに従わず、日を変えて重ねて指示し、最後は明確に命令した後もその日のうちに違反を繰り返した事案です。本社へのメール送信を禁じられた後も、この従業員は「様子を見る」などと述べ、無条件には従わない姿勢を崩しませんでした。

裁判所は、社長の指示は不合理なものではなく、従業員に守らせる必要のある合理的な指示だったとしたうえで、明確な命令の後も違反を重ね、なお従わない姿勢を示していたことから、指導や教育が不十分だったとはいえないと判断しました。あわせて、社長を含めて20名弱という小規模な会社では解雇以外の手段をとることは困難だったと認め、解雇を有効としました。

解雇が無効とされた例

例えば、東京地裁令和3年9月14日判決(D1-Law.com判例体系)は、従業員15名の会社で、上長との関係が悪化して美容界営業部から異動となり孤立していた営業担当者が、担当取引先の販売見込みや年間戦略の月次報告を、上長や管理部長からの再三の求めにもかかわらず行わなくなり、会社が普通解雇した事案です。

裁判所は、複数回の報告拒否が業務命令違反として解雇事由に該当すること自体は認めました。

しかし、会社が個別面談による注意指導や懲戒処分の検討、「改めなければ解雇もありうる」という警告のいずれも行った形跡が証拠上見当たらないとして、業務指示違反を理由とした解雇を無効と判断しました。上長との関係悪化で現場での面談が難しかったとしても、代表者が直接注意・警告することは可能だったとされています。

裁判例からわかること

2つの事案は、会社規模も、「指示に従わない営業担当者」という点も似ています。

結論を分けたのは、次の4点です。

  1. 指示が明確に、繰り返し行われたか。有効例では、社長が日を変えて重ねて指示し、最後は明確な命令として伝えています。
  2. このままでは解雇になりうることを、本人に伝えたか。無効例では、警告の形跡がないことが決定的でした。
  3. その経過が記録に残っているか。裁判所は「形跡が証拠上うかがえない」と述べています。実際に注意していたとしても、記録がなければ「していない」と扱われます。
  4. 会社の規模から、解雇以外の手段が現実にあったか。小規模であることは、配置転換の余地がないという意味で会社に有利に働くことがあります。ただし、指導や警告を省く理由にはなりません。無効例は15名の会社ですが、裁判所は代表者が直接面談することは可能だったとしています。

弁護士のコメント

「うちは規模の小さい会社だから」というコメントを、経営者の方からよくいただきます。

しかし裁判例を見ると、規模が小さいとしても、指導を省略することは正当化されない傾向があります。

社長自身が指導まで手が回らないものの辞めてほしい社員がいる場合には、専門家にサポートに入ってもらうなど、指導を行いやすくする仕組みを作ることが大切です。

仕事をしない社員への指示出しの仕方

基本は書面・メールで指示する

口頭で指示しても従わない社員には、書面またはメールで指示を出します。

理由は二つあります。

一つは、前章の裁判例が示すとおり、記録に残らない指示や注意は「なかった」ものと扱われるからです。

もう一つは、口頭指示は本人の側に「そんな指示は聞いていない」「そういう意味だと思わなかった」と言い逃れる余地を残すからです。

書面・メールでの指示では、次の点を曖昧にしないでください。

  • 誰が行うのか(担当者を本人と特定する)
  • 何を行うのか(成果物や作業内容を具体的に示す)
  • いつまでに行うのか(期限を日付で示す)
  • 完了したら誰に報告するのか

「できるだけ早く」「対応しておいて」という指示は、期限もタスクの所在も曖昧で、後から「やらなかった」と評価する根拠になりません。

言い訳に逐一取り合わない

仕事をしない社員は、指示に対してさまざまな言い訳をします。

「忙しい」「私には無理です」「今は手が離せない」などです。

これらに対して、その都度事情を聞き、本人を納得させようとする必要はありません。

「会社として命じていますので、従ってください」と伝えて押し切るべき場面は少なくありません。

言い訳の一つ一つに付き合っていると、本人の側が「納得しなければ従わなくてよい」という認識を強めてしまいます。

「それは私の仕事ではない」という言い訳については、会社が命じることのできる業務の範囲という別の論点が関わるため、別記事で解説します。

もちろん、押し切ってはいけない場面もあります。

本人の健康や安全に関わる場合、命じた業務が労働契約や法令の範囲を超える場合などです。

押し切ってよいか迷う言い訳が出てきたときは、その言い訳の内容をそのまま顧問弁護士に共有し、対応を相談することを勧めます。

言い訳への対応を一つ誤ると、その後の懲戒処分や解雇の有効性に影響します。

弁護士のコメント

実務でトラブルになりやすいのは、労働者側が「やりたいことをやればよい」「私の仕事はここまで」と、自分で仕事の範囲に線を引いているケースです。

本来、仕事の範囲は会社が決め、その代わりに会社が賃金を払っています。

この原理原則を会社側のスタンスとして崩さないことが、指示出しの場面では何より重要です。

体調不良を言い訳にする場合

「体調が悪くてできない」という言い訳には、別の対応が必要です。

本当に体調不良であれば、会社は安全配慮の観点から無理に働かせることはできません。

一方で、体調不良が逃げ口上として使われている場合、それを許してしまうと、以後すべての指示がこの一言で無効になります。

対応の基本は、診断書の提出を求めることです。

本当に体調不良であれば診断書が出ますし、出ないのであれば体調不良を理由に業務を免れることはできないという整理になります。

詳しい手順は別記事で解説しています。

書面で指示を出しても聞かない社員への対応

書面で明確に命じても仕事をしない場合、次の段階に進みます。

選択肢は、懲戒処分、昇給・賞与の調整、配置転換、退職勧奨の四つです。

懲戒処分の活用

軽い処分から始めます。

けん責(始末書の提出)や訓戒など、最も軽い処分から段階を踏むことで、それでも改まらない場合に重い処分や解雇へ進む土台ができます。

処分の前に、次の点を確認してください。

  • 就業規則に、業務命令違反を懲戒事由とする条文があるか
  • その就業規則が従業員に周知されているか
  • 処分の前に、本人に弁明の機会を与えているか

他の従業員との公平性にも注意が必要です。

同じ程度の指示違反が社内で横行しているのに、特定の社員だけを処分すれば、不当な動機による処分だと主張される余地が生まれます。

その場合は、いきなり個人を処分するのではなく、社内周知による注意喚起など、規律の引き締めを先に行います。

昇給・賞与の調整

昇給や賞与について会社に裁量がある場合は、業務命令違反や懲戒処分を受けた事実を評価に反映させることができます。

これは、前章で述べた「働きが悪いから賃金を減らす」という減額とは異なります。

決まっている賃金を下げるのではなく、会社に裁量のある部分について、具体的な事実を理由に評価を行うものです。

賃金規程や賞与規程で、勤務態度や処分歴が評価の要素として読み込めるかを確認してください。

配置転換の活用

他に適した業務、あるいは現状よりまだ支障の少ない業務があれば、配置転換も選択肢です。

配置転換を試みた事実は、後に解雇を検討する際、会社が解雇を避ける努力をしたことの裏付けになります。

ただし、従業員20名を切るような規模の会社では、配置しうる業務そのものがないことが多いのが実情です。

シリコンパワージャパン事件でも、裁判所は会社の規模から解雇以外の手段は困難だったと認めています。

配置先がない会社が、無理に配置転換の形を作り出す必要はありません。

退職勧奨の実施

指示に違反したこと、懲戒処分を行ったこと、それでも改善しないことを本人に伝えたうえで、退職について話し合いを持ちかける方法です。

「この会社では力を発揮できていないので、他社の方が合っているのではないか」という形で、本人の側から退職を選ぶ余地を作ります。

退職勧奨は、解雇と異なり、本人の同意があって初めて退職が成立します。

拒否された後も執拗に繰り返すと違法と判断されるため、進め方には注意が必要です。

具体的な話し方・進め方については、既存の別コラムをご参照ください。

会社が取るべき対応の手順

ここまでの内容を時系列で整理します。

  1. 「仕事をしない」の中身を特定する(何を命じ、本人が何をしなかったのか)
  2. 書面・メールで、担当・内容・期限を明確にして業務を命じる
  3. 言い訳が出ても、命じた業務の実行を求める。押し切ってよいか迷う言い訳は弁護士に共有する
  4. 従わない場合、個別面談で注意・指導し、面談記録を残す
  5. 改まらない場合、弁明の機会を与えたうえで軽い懲戒処分を行う
  6. 改善期間を設け、改善しなければ解雇もありうることを書面で伝える
  7. それでも改善しない場合、配置転換・退職勧奨・解雇を検討する

残しておくべき資料

  • 雇用契約書、就業規則(懲戒・解雇に関する条文と、周知の記録)
  • 業務指示のメール・書面・チャット記録(担当・内容・期限が分かるもの)
  • 本人からの返信や、言い訳の内容が分かる記録
  • 日報、業務報告書(提出されていないこと自体の記録を含む)
  • 面談記録(日時、出席者、伝えた内容、本人の発言)
  • 注意書・警告書と、その受領記録
  • 懲戒処分通知書と、弁明の機会を与えた記録
  • 他の従業員からの報告メモ、顧客からの苦情メール

弁護士に相談すべきタイミング

口頭で指示をしたら反論してきたタイミング

「なぜ私がやるのか」「それは私の仕事ではない」といった反論が出た時点で、一度相談することを勧めます。

ここで対応を誤ると、以後の指示・注意のすべてに同じ反論が使われかねません。

最初の反論への切り返し方を決めておくことで、その後の指導や書面化がぶれずに進められます。

書面で仕事を指示するのが億劫に感じたタイミング

「わざわざ書面にするほどでもないか」と感じる場面こそ、実は相談のタイミングです。

その面倒さの背景には、指示の内容や表現に自信が持てない事情があることが多くあります。

文面を一緒に作ることで、記録として使える指示に整えられ、後の指導や処分の土台になります。

仕事をしない社員に辞めて欲しいと思ったタイミング

「辞めてもらった方がよいかもしれない」と検討を始めた段階での相談を勧めます。

この段階であれば、実際に辞めてもらう場面に備えて、解雇の前に指導を重ねることができます。

我慢の限界に達してからではなく、検討を始めた早い段階での相談が望ましいといえます。

弁護士のコメント

相談は、解雇する前が一番よいと考えています。

解雇前であれば、指導によって改善を図ることができます。

改善しない場合でも、証拠を集めたうえで、退職の方向へ有利に話を進めることができます。

そもそも、書面で指導を始めると、指導されること自体に耐えられず、自ら辞めていくケースも多くあります。

出典

  • 東京地方裁判所平成29年7月18日判決(シリコンパワージャパン事件)労働経済判例速報2334号22頁
  • 東京地方裁判所令和3年9月14日判決 D1-Law.com判例体系〔判例ID:29066728〕

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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