はじめに
「私は病気なのでこの仕事はできません」「・・・という特性があるので配慮してください」
このような言い方で仕事を拒否する従業員に悩む経営者は少なくありません。
診断書が出ているわけでもないが、かといって、無理をさせるのも問題になりかねない。
この記事では、トラブルを避けるポイント、そして弁護士に相談すべきケース等解説します
Q 精神的な不調を理由に仕事を拒否する従業員への対応がなぜトラブルになるのか
トラブルになるのは、判断材料を持たないまま「認める」か「押し切る」かの二択で動いてしまうからです。裏付けを確認せずに拒否を認めれば対象は際限なく広がり、申告を軽視して命令を続ければ安全配慮義務違反を問われます。会社が負けるのは判断の中身ではなく、判断に至る過程です。
不調の裏付けを確認せず、拒否をそのまま認めてしまったケース
診断書もないまま拒否を認め続けると、対象業務は際限なく広がります。
業務の割り振りが事実上本人の意向で決まり、他の従業員に負担が偏ります。黙認の期間が長いほど、後からの対応は難しくなります。
また、「仕事をしなさすぎる」という理由で解雇しようにも、指導記録などがないため、解雇できず、損害賠償責任を負うことになりかねません。
不調の申告を無視した結果、体調が悪化したケース
「本人の言い分にすぎない」として無視をした結果、体調が悪化すれば、安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。
例えば、精神的な負担が大きいため当該上司との仕事が困難である旨の申告を繰り返していたが会社がそれを放置した結果、当該従業員が自殺し、最終的に会社が5000万円を超える賠償責任を負うケースもあります(徳島地方裁判所平成30年7月9日参照)
Q トラブルにならないポイントは
ポイントは3つです。①医師の意見で「働ける範囲」を客観的に確定させること、②業務命令の根拠と必要性を確認し、配慮を検討した経過を記録に残すこと、③拒否が続く場合も段取りを踏んでから処分を判断すること。これらの手順が、そのまま会社を守る証拠になります。
① 医師の意見で「働ける範囲」を確定させる
会社の判断の出発点は、本人の申告ではなく医師の意見です。「何ができないのか」「どの程度の期間か」を書面で確定させれば、拒否を漫然と認める対応も、申告を無視して命令を続ける対応も、どちらも避けられます。
ただし、診断書の提出を拒否するケースや、診断書が出ても内容が趣旨不明なケースでは対応に苦慮することになります。
例えば、「就労可能であるが、本人の負担となる業務はできるだけ避けるのが望ましい」といった診断書では、苦痛を感じたという主観的な理由で仕事をさせてはいけないという意味なのか、それとも特定の業務がダメなのかはっきりしません。
当事務所では、パワハラと受け取られない診断書の求め方を助言します。また、診断書が出た場合には、主治医への連絡や意見確認の準備対応を行います。
診断書が出るたびに、その文言をどう解釈すべきか、どこまで命令してよいかをいちいち自社で考え、反論を用意する手間をなくし、経営者ご自身が、本来の仕事に専念できるようにします。
② 業務命令の根拠と必要性を確認し、配慮の検討経過を記録する
医師の意見を踏まえて、次の一手を検討します。雇用契約書等も見ながら
- 業務命令として作業を命じ、拒否する場合には懲戒処分を行う
- 業務内容を変更する
- 配置を変更する
- 休職など療養の機会を与える
等の対応を検討します。
これらの対応は、会社の安全配慮義務と業務命令権のバランスをとりつつ、記録を確保しながら行うことになります。
当事務所では、業務指示をどのような形で出すべきかの検討から、実際に従業員へ渡す業務指示書の代筆まで、実際に会社が対応するために必要な策を講じます。
指示の内容・表現ひとつで「配慮を尽くした」と評価されるか「不合理な命令だ」と評価されるかが変わります。その都度自社で文言を練る手間や、後から指示内容の妥当性を問われて反論を考える手間をなくし、その分、本業に専念する時間を取り戻せます。
③ 拒否が続く場合は、段取りを踏んでから処分を判断する
配慮を尽くしても拒否が続く場合、はじめて処分や退職を検討する段階に入ります。ここで必要なのは、指導・警告・休職の検討という段階を踏み、その経緯を書面に残してから判断することです。順序を飛ばした処分は、内容が正しくても無効になります。
当事務所では、警告書・業務指示書・休職命令書・退職通知書といった各段階の書面を作成し、送付方法や記録の残し方まで指示します。
また、相手方に弁護士や労働組合が就いた場合には、交渉、労働審判・訴訟の代理も引き受けます。
Q 弁護士に相談すべきケースは
① 弁護士に相談すべきケース
以下のようなケースでは、自己判断で進める前にご相談ください。
- 診断書が「就労可能だが負担となる業務は避けるべき」など趣旨が判然とせず、対応方針を決めかねている
- 本人が「メンタル不調」を理由に特定の業務・部署・上司の指示を拒否し、それが常態化しつつある
- 業務命令や配置転換への拒否が続き、就業規則・雇用契約書の根拠だけでは押し切れるか不安がある
- 配慮をどこまで行うべきか判断がつかず、対応が場当たり的になっている
- 拒否を理由に懲戒処分や解雇を検討しているが、手続きに漏れがないか確信が持てない
- 本人や家族から「パワハラだ」「安全配慮義務違反だ」と主張され始めている
- 弁護士や労働組合など第三者が本人側に就いた
② 当事務所ができること
弁護士が間に入ることで、経営者ご自身が本人と直接対峙して疲弊する状況を避けられます。何より、本人の要求に押し切られることなく必要な業務指示を出し続けられる体制を作れる点が最大の価値です。対応が一貫していれば他の従業員の「あの人だけ特別扱いされている」という不満も抑えられ、経営者は本来の経営業務に専念できます。
- 診断書・現在の対応状況の精査と、今取るべき対応の整理
- パワハラと受け取られない診断書提出の求め方の助言、主治医への連絡・意見確認の準備対応
- 業務命令の有効性のリスク診断と、配慮案の設計(本人の要求に応じすぎず、かつ安全配慮義務も満たす線引きの提示)
- 業務指示書・警告書・休職命令書など各段階で必要な書面の作成(経営者が自ら文言を考え、後から反論を用意する手間をなくす)
- 産業医との連携支援、面談への同席(経営者が単独で本人と向き合う負担を軽減)
- 相手方に弁護士・労働組合が就いた場合の交渉、労働審判・訴訟の代理
③ まとめ
精神的な不調を理由とする拒否への対応は、認めすぎても押し切っても紛争になり得ます。医師の意見の確定、配慮の記録、正しい手順という3点を押さえることが解決の近道です。まずはお気軽にご相談ください。
監修弁護士の紹介
稲田拓真(岡山弁護士会)
岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。
