高待遇で採用した従業員が期待外れの能力不足であったときに、解雇できるか。裁判所は小規模な企業であっても解雇をなかなか有効とは認めません。
今回はトラブル対応のポイントも解説をします。
即戦力の従業員の解雇がトラブルとなるのはどのようなケースか
採用時に必要な条件が明確にされていないケース
多いのは、即戦力として必要なスキルが求人票に明記されていないケースです。
また、求人票には書いているが、採用面接時に質問により確認されていないケースもトラブルになります。
次の裁判例は、採用面接での確認を怠ったために、解雇が無効となった裁判例です。
東京地裁 令和7年6月13日判決
会社(従業員10名未満)は、X(営業の即戦力。年収1000万円)を採用する際に、富裕層との個人的な人脈の存在を前提としていました。しかし、Xにそのような人脈がなかったため、会社がXを解雇した事案です。
裁判所は、Xは確かに富裕層40名程度を列挙したリストを提出していたが、その人脈については語っておらず、被告代表者も、人的関係については確認していないことを理由に「原告と本件名簿の掲載者との人的関係の存在及び内容が、本件労働契約を締結する上で必要な条件であったとも認められない。」と判断し、会社が主張する人脈がないことは、解雇の理由にならないと判断しました。
能力不足の見極め期間が短期間であったケース
例えば、3か月間の短期間などで能力不足の見極めをする場合、業種によっては、そのような短期間で成果が出なかったとしても、能力が不足しているとは言えないと判断されることがあります。
東京地裁 令和7年6月13日判決
財団法人設立のコンサルティング営業が3か月の試用期間中にアポイントを1件しか取れなかったことから、会社が、労働者Xを解雇した事案。
裁判所は、会社の事業は「短期間で成果を出すことは困難」であることを理由に、試用期間中に結果が出なかったことは解雇の理由にならないと判断しました。

弁護士のコメント
他にも証券販売員を3か月程度の販売成績で能力不足と判断して解雇した事案で、裁判所は解雇を無効としています(東京高裁 平成21年9月15日判決・東京地裁 平成21年1月30日判決)
即戦力として雇った以上は、すぐに結果を出してもらわないと困ると言うことは非常によく理解できます。その上で、裁判所の考え方も踏まえた上で、採用の基準や賃金制度の設計方法などに工夫が必要なことが伺えます。
指導が不足していたケース
東京地裁 令和7年6月13日判決の事案でも、会社が営業先についてアドバイスする程度の指導しかしていないことを理由に、解雇が無効であると判断しています。
また、別の裁判例でも、具体的な指導や警告の不足を理由に、解雇が無効となっています
即戦力の従業員であっても、具体的な指導や警告を行うことが必要となります。
どのような能力不足の従業員は弁護士に相談した方が良いのか
特に解雇や試用期間の満了での契約終了が予想されるケースでは、早めに弁護士に相談することをお勧めします。例えば、次のようなケースです。
- 採用時に「ある」と述べていたスキルが全くない、あるいは、想定よりもなかった
- 同じ指導を1か月で2回以上しても同じ原因のミスを繰り返している
- 仕事ができないことを理由に取引先から苦情が生じている
- 後輩や他の従業員であれば結果が出ている期間、入社から経過しても、他の人の半分程度の成果しか出ていない
当事務所ではどのような対応ができるのか
裁判例の判断基準に沿った指導記録の設計
裁判所は、能力不足そのものよりも、会社が具体的な指導と改善の機会を与えたかを重視します(東京地裁 令和7年6月13日判決、東京高裁 令和元年6月5日判決)。一方で、書店訪問の事前準備や営業報告書の記載方法まで踏み込んだ指導を積み重ねた事案では、解雇が有効と認められています(さいたま地裁 令和4年4月19日判決)。
当事務所では、弁護士が、裁判例で「有効」と評価された指導の水準を基準に、注意指導書・指導記録・日報への会社コメントなど、どの場面でどの証拠を残すべきかを、会社の業種と職務内容に合わせて設計します。
このため、日々の指導がそのまま解雇の有効性を支える証拠として積み上がり、いざというときに「指導を尽くした」と示せる状態を保つことができます。
指導文書の作成の代筆
指導記録は、作成しさえすれば足りるものではなく、記載の具体性がそのまま争点になります。
当事務所では、弁護士が、会社の担当者に代わって、労働者作成の日報に対するコメント、業務改善のための指示書の代筆を行います。
このため、どのような文書を作成すべきか、どのように伝えるべきか、悩む時間から解放され、本業に専念できます。
試用期間満了・退職勧奨・解雇通知の手続の選択
見極め期間が短いまま踏み切った解雇は無効となりやすく(東京高裁 平成21年9月15日判決・東京地裁 平成21年1月30日判決)、通知書に記載した理由は、後の訴訟でそのまま会社の主張を縛ることになります。
当事務所では、弁護士が、記録の蓄積状況を踏まえて本採用拒否・退職勧奨・解雇のいずれで進めるかを判断し、通知書面の作成から労働者との交渉、労働審判・訴訟の代理まで一貫してお引き受けします。
このため、手続の選択を誤って解雇が無効となるリスクを抑えられ、万一紛争となった場合にも、経緯を把握した同じ弁護士がそのまま対応にあたります。
監修弁護士の紹介
稲田拓真(岡山弁護士会)
岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。


