Q体調不良で欠勤する社員が診断書を出さない

休職・メンタル不調

はじめに

体調不良を理由に欠勤する社員に対して、「本当に具合が悪いのか確認したい」と考える経営者の方は少なくありません。そこで、「診断書を出して」とお願いをした際に

  • 「診断書を求めるのはプライバシーの侵害にあたるのでは」
  • 「そもそも会社に診断書を求める権利があるのか」

等と言われて提出を拒否されるケースもあります。

診断書を出さない=不合理な欠勤と決めつけて対応すると、損害賠償等のトラブルになりかねません。

今回は、「体調不良」を理由に欠勤する社員への診断書対応について、トラブルになりやすいケースと、その予防策をまとめました。

診断書の提出を求めることによるトラブルが起きるのはどのようなケースか

診断書の提出を求めること自体は、就業規則の定めがなくても認められますが、①規定がないまま受診命令を強行する、②診断書が出ないことのみを理由に手続きを踏まず解雇する、③診断書の内容を精査しないまま対応を決める、といったケースでは、解雇無効や損害賠償のリスクに発展しやすくなります。

就業規則に受診命令・診断書提出の規定がないまま求め、拒否されるケース

就業規則に規定がなくても、合理的な理由があれば受診命令や診断書提出を求めることは可能ですが、規定がないと社員から「応じる義務はない」と反論されやすく、命令の適法性そのものを争われるリスクが高まります。

東京高等裁判所の判例では、就業規則に定めがなくても、使用者は指定医の受診を指示することができ、労働者はこれに応じる義務があると判断されています(東京高判昭61年11月13日労働判例487号66頁)。

ただし、この判例はあくまで欠勤状況等を踏まえた合理的な命令であることが前提であり、規定がなければ「合理性」の立証負担は使用者側に重くのしかかります。無用な争いを避けるためにも、受診命令・診断書提出義務を就業規則に明記しておくことが望ましいといえます。

診断書の提出拒否のみを理由に、指導や休職命令を経ずに解雇するケース

診断書が提出されないことに業を煮やし、注意指導や休職命令のプロセスを経ないまま解雇に踏み切ると、裁判所から「回復の機会を与えていない」と判断され、解雇が無効とされるリスクが高まります。

最高裁は、被害妄想を理由に欠勤を40日間続けた労働者を諭旨退職とした事案について、精神科医による健康診断を実施し、その結果に応じて治療の勧奨や休職等の要否を検討したうえで経過を見るべきであったとし、これらの対応を経ずに行った処分を、精神的な不調を抱える労働者への対応として適切とはいえないと判断しました(最高裁平成24年4月27日)。診断書が出ないからといって、いきなり解雇に進むことは同様のリスクをはらみます。

提出された診断書の内容を精査せず、病状と欠勤の関連性を確認しないまま対応を決めるケース

診断書が提出されても、そこに記載された病名や症状と欠勤との関連性を確認しないまま指導や処分を進めると、後になって「診断書を無視した不当な対応だ」と主張され、紛争に発展しやすくなります。

診断書が出ていても、その内容から病気と欠勤との関係が読み取れないケースは少なくありません。このような場合には、主治医への照会等を通じて、問題となっている欠勤や行動が本当に当該疾病によるものかを確認する必要があります。確認を怠ったまま対応を進めると、処分の相当性そのものが争われることになりかねません。

Q トラブルにならない対応手順は

診断書対応のトラブルを防ぐには、①受診命令・診断書提出義務を就業規則に明記する、②書面で段階を踏んで指導する、③診断書の内容を精査し主治医に照会する、という3つの手順を押さえることが重要です。

就業規則に受診命令・診断書提出義務の規定を整備する

「体調不良を理由とする欠勤があった場合、会社は診断書の取得・提出を求めることができる」旨を就業規則に明記しておくことで、後日、社員から「応じる義務はない」と反論されるリスクを大きく減らせます。

もっとも、既存の休職規定・服務規律との整合性を取らずに条文を追加すると、規定同士が矛盾し、かえって別のトラブルの火種になりかねない点が難しいところです。この点、問題社員の対応を弁護士に相談することで、これまでの紛争事例を踏まえた実効性のある条文表現を、既存規定との整合性を保ちながら短期間で整備できます。

診断書の提出を書面で求め、拒否された場合は段階を踏んで指導する

診断書の提出要請は口頭ではなく書面で行い、記録を残すことが基本です。拒否が続く場合も、いきなり処分に進むのではなく、注意・指導を段階的に重ね、経過を記録しておく必要があります。

書面の文言や送付方法を誤ると「命令が伝わっていなかった」と反論される一方、指導の頻度や言い回しを誤ると今度は「パワハラだ」と主張されるリスクもあり、さじ加減が難しい部分です。問題社員の対応を弁護士に相談することで、証拠として機能する文書の作成と、行き過ぎにならない指導の進め方の両方を設計できます。

提出された診断書の内容を精査し、必要に応じて主治医へ照会する

診断書が提出されたら、病名・休養期間・就労不可の根拠が明記されているかを確認し、欠勤の実態と整合しているかを精査します。内容が曖昧な場合は、主治医への照会を検討します。

主治医への照会は、本人の同意取得や照会文書の作成などプライバシーに配慮した手続きが必要で、手順を誤ると人格権侵害を主張されることもある点が難しいところです。問題社員の対応を弁護士に相談することで、適法な手続きを踏んだ照会文書の作成と、確認後の対応方針までを一貫してサポートできます。

Q 弁護士に相談すべきケースは

弁護士に相談すべきケース

  • 診断書の提出を求めても、社員が「プライバシーだ」などとして応じない
  • 提出された診断書の内容が曖昧で、病気と欠勤の関連性が読み取れない
  • 診断書が出ない欠勤が続き、解雇や懲戒処分を検討したいが手順に自信がない
  • 主治医への照会や産業医面談など、医学的な確認をどう進めればよいかわからない
  • 就業規則に受診命令・診断書提出義務の規定がなく、対応の根拠に不安がある

当事務所ができること

  • 就業規則への受診命令・診断書提出義務規定の整備
  • 診断書提出要請書・注意指導書など、証拠として機能する書面の作成
  • 主治医への照会や産業医面談の段取り・同席サポート
  • 提出された診断書の内容確認と、対応方針(休職命令・懲戒処分等)の助言
  • 解雇・退職勧奨を見据えた場合の、手続き全体の代理対応

まとめ

診断書の提出要請は、規定整備・書面対応・内容確認の3点を押さえることで、多くのトラブルを防げます。対応に迷う場合は、早めに弁護士へ相談することが、紛争化を防ぐ近道です。

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