- 根拠のない解雇や犯罪の示唆で退職させると、退職そのものが無効・取消しになります。
- 本人が退職を断った後も繰り返し迫る、その場で退職願を書かせる進め方は、違法と判断されやすくなります。
- 穏やかな言い方でも、本人の落ち度が軽いのに「信頼関係ゼロ」などと非難すれば違法になります。
- 逆に、厳しい表現でも問題行動の裏づけがあれば適法とされた例があります。分かれ目は言葉の強さではなく事実の裏づけです。
- 退職条件を具体的に示し、本人が選べる形で伝えることが、後日の紛争を減らします。
はじめに
退職勧奨がトラブルとなるケースが増えています。
特にどのような言い回しで伝えればいいか、弁護士に相談し、台本を備えた上で臨むような相談者が増えていることも、トラブルが多いことを示唆しています。
今回は、特に問題になりやすい言い回しについて解説をします。

同じようなお悩みは、早めに弁護士へご相談ください
対応を誤ると、解雇無効やハラスメント主張など、会社側のリスクにつながります。労務問題対応の経験が豊富な弁護士が、具体的な状況に応じた対応方針をご案内します。
弁護士のコメント
退職勧奨の違法性の基準に関するコラムや文献は無数にあります。
今回はあえて全てを網羅せず、トラブルになりやすい3つの類型を中心に解説をしています。
退職勧奨について弁護士に相談することで、この他の問題点も踏まえ、どのように伝えるかもわかります。
「信頼関係ゼロ」との言い回し
退職勧奨を行うということは、会社としてその従業員を雇用し続けることが難しいと判断しているということです。
期待した働きが得られない、職場の他の従業員との関係が築けない、指導しても改善が見られない。
そうした事情があるからこそ、退職を促す場面になります。
そして面談では、その判断の理由を本人に伝えることになります。
ところが、会社が感じていることをそのまま言葉にすると、違法な退職勧奨と判断され、損害賠償につながります。
「あなたとは信頼関係がない」「一緒に働くのは難しい」という表現は、会社の率直な認識であっても、本人にとっては職場から排除するという通告になるからです。
声を荒げず、淡々と伝えたとしても同じです。
例えば、名古屋高裁平成30年9月13日判決(労働判例1202号138頁)は、労働者Xが上司にあたる職員に対して、メールで有給休暇(恩師の葬儀への参列)の申請をしたこと等について、上司の職員が「とにかく今は、信頼関係ゼロです」等の発言をした事案です。
裁判所は、まずこの発言について、職場からの排除を示唆されたと感じ得るものであり、退職勧奨の趣旨を含む発言であると判断しました。
そのうえで、Xが電話で3回連絡をしたのに繋がらなかったためメールで連絡をしたという事情を一切汲まずに、Xに一方的に非があると決めつけ、「信頼関係ゼロ」などと非難して職場から排除しようとするものであるとして、社会的相当性を逸脱する違法な退職勧奨であると判断しました。
その結果、会社は、慰謝料と弁護士費用あわせて66万円の支払いを命じられました。
また、この事案では、退職から解決までに3年近くを要しています。

弁護士のコメント
この事案では上司は怒鳴ることもなく淡々と話をしていたようです。
そのような事案であっても、労働者側の落ち度が強くない事案で強い言葉を使えば、退職勧奨が違法になってしまいます。
当職としては、退職勧奨の前に、なぜ退職勧奨をしたいのか、どのような事実があったのか、それがどの程度非難される事実かを、第三者の意見も聞きながら見極めた上で、言い方を決めるのが大切と考えます。
懲戒解雇などの重大な不利益を示唆する言い回し
退職勧奨をする場面では、その従業員に何らかの問題行動があることがほとんどです。
会社としては、これらを踏まえて「このままでは懲戒解雇もあり得る」と伝えたくなります。
本人に事の重大さを認識してもらい、自分から辞めるほうが得だと理解してもらいたいからです。
しかし、その問題行動が本当に懲戒解雇に値するかを見極めないまま処分の可能性を口にすると、退職の効力そのものが失われます。
犯罪と決めつける言い回しが問題となった例
例えば、東京地裁令和4年3月25日判決(労働判例1269号73頁)は、警備員として勤務していた労働者Xが休憩時間を実際より短く申告していたことについて、会社の役員らが「電子計算機使用詐欺罪に当たり、執行猶予が付かない重大な犯罪である」「現職の人間は警察に連れていくが、退職すれば警察には連れて行かない」と告げ、その場で退職届を書かせた事案です。
裁判所は、まずXは休憩時間の申告方法について指示を受けておらず、給料が減額になることにも思い至っていなかったとして、過失で給与を過大に受け取ったにすぎず、犯罪に当たるという説明は虚偽であると認定しました。
そのうえで、退職しなければ罪を免れることができないというXの退職の動機は会社に表示されており、この錯誤がなければXは退職の意思表示をしなかったことが明らかであるとして、退職の意思表示は錯誤により無効であると判断しました。
その結果、会社は、Xの雇用契約上の地位を認められたうえ、退職扱いとした日以降の賃金の支払いを命じられました。
懲戒免職の示唆
同じことは、犯罪の示唆に限りません。
東京地裁平成23年10月31日判決(労働判例1041号20頁)は、航空会社の契約社員が書面で自主退職しない意思を明確に示した後、上司が面談で「懲戒免職とかになったほうがいいんですか」と述べて退職を迫った事案です。
この従業員には、面談の直前に配車不乗とマニュアルの差し替え未了という過誤がありました。
それでも裁判所は、懲戒免職の可能性を示唆して退職を求めた言動を、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であると判断しています。
退職日を指定する言い回し
退職勧奨が思うように進まないと、会社としては期限を切って伝えたくなります。
「今月末で退職してください」「3月31日付けで辞めてもらいます」という言い方です。
しかし、退職日を会社が決めて通告する形になると、その発言は退職の勧めではなく解雇と受け取られます。
解雇と評価されれば、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、これを欠けば無効となります。
無効となった場合、会社は退職日以降の賃金を支払うことになります。
退職を促す場面では、退職日は本人と話し合って決めるものとして扱い、会社から日付を指定して通告する形を取らないことが重要です。
トラブルになりにくい伝え方
問題行動の程度に応じて伝える
ここまでの裁判例が示しているのは、同じ言葉でも、問題行動の裏づけの有無によって評価が変わるということです。
伝え方を決める前に、本人の問題行動が客観的な記録で裏づけられているか、指導を重ねてきた経過があるかを確認してください。
解雇や懲戒処分に値するかどうかは、弁護士の法的判断が必要です。
事実を伝え、断定しない
虚偽の説明や、懲戒解雇に値しない事実が懲戒解雇自由である等と述べて行う退職勧奨は、退職の効力そのものを失わせます。
裁判例の中には、処分の内容を尋ねられて「まだ決定していない」と答えた対応について、退職勧奨時の言動として適法とされた例もあります(札幌高判令和4年3月8日)。
事実の内容を踏まえた伝え方が大切となります。

弁護士のコメント
退職勧奨はハッタリやカマをかける等の対応では成功しません。退職勧奨に応じなかったらどうなるかを見極めた対策が必要となります。
退職するメリットを具体的に示す
退職する代わりに一定の金銭を上乗せで支払う、退職時期を調整する等のメリットを提案することも退職勧奨を成功させるのに有用です。
労働者からすれば、退職は自らの生活の糧を失うことになります。人手不足の時代でも再就職は決して楽ではなく、生活への不安から退職を拒否することは何らおかしなことではありません。
このような不安に理解を示し、一定の援助を示すことが円満な解決には有益です。
参考裁判例 東京地判令和7年5月23日
上乗せ退職金を含む退職勧奨に応じた退職の申し出が無効であると争われた事案。
裁判所は、本件退職合意は、通常の退職金に加え、1年分の賃金額を超える特別退職一時金の支払を伴うものであることや、退職日について労働者の意向を踏まえ6ヶ月後ろ倒ししたこと等を踏まえて、原告による本件退職合意の承諾(本件受諾メールや本件各付属書類の提出)については、原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると判断し、退職合意が有効であると判断しました。

弁護士のコメント
中小企業の依頼者で多い条件は、①退職期間の後ろ倒し、②在職中の転職活動を認める、③特別退職金の上乗せ(1ヶ月〜3ヶ月程度)です。
これらの条件を組み合わせるなどして提案することで、退職合意に近づけることができます。
本人が選べる形にし、考える時間を与える
適法とされた事案に共通するのは、本人に選択の余地と時間があったことです。
札幌高判の事案では、退職勧奨の3日後に面談を設け、本人が約1時間弁明したうえで自ら退職を口にしています。
東京地判令和7年の事案では、当初提案から受諾まで半年近い交渉期間がありました。
逆に、違法とされた事案では、その場で退職願を書かせようとしたり(東京高判令和3年6月16日)、拒否した本人に面談で迫り続けたり(東京地判平成23年10月31日)しています。
残しておくべき記録
ここで取り上げた裁判例の多くは、面談の録音が証拠として提出され、発言が一言一句認定されています。
退職勧奨の場面は、録音されている前提で臨む必要があります。
会社側で残しておくべき記録は次のとおりです。
- 問題行動の事実と日時(苦情メール、ドライブレコーダー、勤怠記録など客観的資料)
- 指導の経過(注意・指導の日時、内容、本人の反応)
- 面談の日時、出席者、所要時間
- 面談で伝えた内容(処分が未決定なら、未決定と伝えたこと)
- 本人の発言(退職の意思を示した言葉、質問の内容)
- 退職条件の提示書面と、本人からの受諾の連絡(メール等)
- 退職届・退職合意書
弁護士に相談するタイミング
- 問題社員の言動が改善されず、退職させることを検討し始めたとき
- 問題社員に退職勧奨を行いたいと考えたとき
- 問題社員から退職勧奨の中止を要求されたとき
- 問題社員が退職の撤回を要求したとき
この記事で取り上げた裁判例のうち、会社側の対応が適法とされた2件(札幌高判令和4年3月8日、東京地判令和7年5月23日)は、いずれも面談前の段階で伝え方と手順が設計されていた事案です。
紛争になった後ではなく、退職勧奨を行う前の段階が、弁護士への相談が最も効果を持つ時期です。

弁護士のコメント
退職勧奨の前から相談することでトラブルにならない伝え方が可能となります。トラブルになると2年以上対応に要するケースも多いため、事前の相談で効果的に対応することが重要です。
監修弁護士の紹介
稲田拓真(岡山弁護士会)
岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

出典
- テイケイ事件・東京地判令和4年3月25日・労働判例1269号73頁
- A病院事件・札幌高判令和4年3月8日・労働判例1268号39頁(判例時報2563号53頁、労働経済判例速報2482号3頁)
- 日本航空事件・東京地判平成23年10月31日・労働判例1041号20頁(判例時報2145号121頁)/控訴審:東京高判平成24年11月29日・労働判例1074号88頁
- 東武バス日光ほか事件・東京高判令和3年6月16日・労働判例1260号5頁/第一審:宇都宮地判令和2年10月21日・判例時報2490号79頁
- 公益財団法人後藤報恩会ほか事件・名古屋高判平成30年9月13日・労働判例1202号138頁
- アナログ・デバイセズ事件・東京地判令和7年5月23日・労働経済判例速報2600号21頁