- 法令違反を繰り返すドライバーの解雇が無効となり1200万円以上の支払いを命じられた事案がある。
- まずは退職勧奨で退職してもらうことを目指す。
- 譴責、出勤停止など懲戒処分を重ねていくことが重要。
- 弁護士に相談して効率的な退職等へのロードマップを作り対応する。
はじめに
過積載や速度超過などの法令違反を繰り返すトラックドライバーがいる場合、運送会社の存続が危ぶまれます。
事故が起きれば、責任は運転者個人にとどまりません。車両使用停止などの処分を受ければ、事業の遂行そのものに影響します。
それだけに、こうした運転者には辞めてもらいたいと考える会社は少なくありません。
もっとも、法令違反を繰り返しているという事実があるだけでは、解雇は有効になりません。
今回は、このようなトラックドライバーの解雇が問題となった裁判例をもとに、どのように辞めてもらうかを解説します。
裁判例の概要
裁判例の情報
京都地裁令和7年7月4日判決(労働判例1356号23頁)
争点は解雇の有効性のほか、実労働時間や割増賃金の算定方法など多岐にわたりますが、本記事では解雇の有効性に絞って取り上げます。
事案の概要
原告Xは、会社Yで4トントラックを運転し、配送業務に従事していた選任運転者です。
Xには、次のような法令違反や社内規律違反が認定されています。
第一に、運行記録の未登録です。令和元年9月から数か月間、Xは運転するトラックのデジタコにSDカードを挿入せず、運行記録をデータ化しませんでした。この件についてXは、令和2年5月17日付けで譴責処分を受けています。
第二に、過積載運行です。令和2年12月から令和3年1月にかけて3回、本来2回に分けて配送する量の荷物を一度に積み込んで運行しました。荷物の分量からすると、法定の積載量を1400キログラム程度超過していた可能性があります。
第三に、指定納品時刻違反です。荷主の指定時刻よりも30分から1時間以上早く到着し、荷卸しをしていたことが4回ありました。
第四に、速度超過です。令和3年1月の1か月間、運行日24日のすべてで制限速度を超過し、うち5日間は一般道で時速90キロメートル台で走行していました。
さらに、Xは、過積載運行と指定納品時刻違反について、運転日報に真実と異なる記載をし、これらを隠蔽しようとしていました。
会社Yは、これらの違反が発覚した後、Xを呼び出して事情聴取をしました。その際、Xは事実を認めた上で、過積載の理由については仕事が早く終わるからだと回答し、違反行為をしたことへの認識や反省の弁は述べませんでした。
このため、会社Yは、懲罰委員会を開催した上でXを諭旨解雇とし、その後、予備的に普通解雇の意思表示をしました。
裁判所の判断結果
京都地裁は、諭旨解雇・普通解雇のいずれも無効と判断しました。
その結果、会社Yは、雇用契約上の地位の確認に加え、解雇日から判決までの未払賃金1259万2524円と、判決確定までの毎月21万5872円の支払いを命じられています。
諭旨解雇から第一審判決までは約4年5か月を要しました。
裁判所の判断
裁判所は、具体的な過積載の程度は明らかではない上、過積載について十分な注意を受けたと認められないことや、運転日報の記載は単に過誤である可能性を否定できないことなどから、「被告が原告に対して十分に指導監督を行ったものの、さらにこれに原告が違反した等という事情も認められないのであるから、そのような指導監督を経ないままに、直ちに諭旨解雇を行うことは社会通念上相当であるとは認められない」と判断しました。
また、裁判所は、普通解雇についても「被告が、当該違反について原告に対して十分に指導監督を行ったと認めることはできない」とした上で、面談から解雇までの1か月半のうちに過積載を繰り返していないことなどから、「原告について指導監督の効果がないとはいえない」として、本件普通解雇は無効であると判断しました。
本判決の評価|普通解雇まで無効とすべき事案だったか
懲戒解雇と同視される諭旨解雇が無効とされたことは理解できるとしても、普通解雇まで無効とした結論には疑問が残ります。
本件で労働者Xは、運行記録を作成しなかった、過積載を行った、法定速度を毎日超過した、運転日報を不正確に記録したという行為を引き起こしています。
これらの行為は、いずれも道路交通法や貨物自動車運送事業法等に違反し、運輸局が会社に対し車両等の使用停止処分を命じる原因になります。このため、単なる社内規定違反と異なり、法令上も事業の遂行が不可能になる結果に直結するものです。
ところが、判決には、このような悪質性についての言及はありません。
また、トラックドライバーとして採用された以上は、運行記録の作成、過積載をしないこと、法定速度を遵守することなどは、契約上当然に要求されると考えます。そもそも法定の研修を受けているはずです。しかし、判決にはこの点についての言及もありません。
このため、今回の判決は、使用者側の弁護士としては疑問なしとはしないところです。

弁護士のコメント
ただ、使用者側の弁護士としては本件のような判決が出るリスクも踏まえた対応が必要と考えます。危険な運転手だから解雇が認められるべきという「べき論」だけでは会社に1000万円を超える損害をもたらしかねません。
そのため、当職としては、記録を残す、懲戒処分を重ねた上で、退職勧奨を行う等の方法で対応することになります。
本件でもいきなり諭旨解雇ではなく、過積載の事案に対する記録の残し方、ヒアリングの仕方、懲戒処分の対応等解雇までの手順によっては、結論が変わった可能性もあります。
会社が取るべき対応
問題行動の記録を残す
本件では少なくとも1000キログラムを超える過積載が生じていた可能性がある事案でしたが、裁判所は、過積載の具体的な量がわからないことを理由に、懲戒解雇事由としては不十分であるとの判断をしました。
少なくとも発覚した段階で顛末書を作成させ、どの程度の分量の過積載があったかを本人の直筆で記録に残すことで、このような判断を回避できた可能性があります。

弁護士のコメント
トラック事業者が危険運転を繰り返すドライバーの解雇を行う際の重要な証拠は、①顛末書、②ドライブレコーダー映像、③運転日報(デジタルタコグラフの記録)の3点です。特に、会社の実情に合わせた顛末書の雛形を作成することを強くお勧めいたします。顛末書の雛形があり顛末書を毎回提出させるという運用を確立するだけで、危険な運転者を解雇できる可能性は非常に高まります。

解雇の前に段階的な懲戒処分を行う
本件の問題は、譴責処分の次の処分がいきなり諭旨解雇だった点にあります。
譴責の次が懲戒解雇と同視される処分では、処分の重さの選択そのものに疑問が残ります。
出勤停止などの中間的な処分を経てもなお同種の法令違反を繰り返した、という経過があれば、少なくとも普通解雇については結論が変わり得たと考えられます。
就業規則に定められた懲戒の種類を確認し、段階を飛ばしていないかを検討してください。
まず退職勧奨を検討する
法令違反を理由とする場合であっても、いきなり解雇に進むことは勧められません。
本件のように解雇が無効とされれば、会社は判決までの賃金を遡って支払うことになります。本件では、その期間が4年を超えました。
合意によって退職してもらうことができれば、この不確実性を避けることができます。
まずは退職勧奨による解決を目指し、それが難しい場合に懲戒処分や解雇を検討するという順序が基本です。

弁護士に相談すべきタイミング
相談をいただきたいのは、解雇の通知を出した後ではなく、譴責などの懲戒処分を検討する段階です。
この段階であれば、どの処分を選ぶか、次にどのような事情が生じれば解雇が可能になるか、そのために何を記録しておくかを整理することができます。
本件のように、処分そのものは行われていたにもかかわらず、その積み重ね方によって解雇が無効とされる例は少なくありません。
このほか、遅くとも解雇を検討するような危険運転・法令違反があったタイミングではご相談ください。その案件の記録の残し方を助言するとともに、これまでの問題行動の記録の有無を踏まえた進め方(退職勧奨を行うか、行う場合の条件をどうするか等)、解雇する場合の解雇通知の作成などを助言し、紛争リスクを最小限にします。
これにより、経営者が4年を超えて労使紛争に悩まされるような事態を回避し、本業に専念できる環境を整えます。
