裁判例:口頭での退職に関するやり取りが不当解雇となった例

解雇・退職

裁判例の概要

東京地裁令和7年11月28日判決(オフィース・T事件)

事案の概要

この事案では、原告労働者は、MS法人である使用者に所属する従業員であり、医師であるB理事長の送迎ドライバーであった。原告は、令和3年12月28日、B理事長の送迎を行った際に、不満を述べ、B理事長は、原告に「辞めてくれ。」と言った。原告は、これに対し、明確には、応答しなかった。

その後、被告代表者は、B理事長の指示を受けて、令和3年12月29日、原告に対し、同日付けで辞めてもらいたいという趣旨のことを言い、原告は、仕方がないという趣旨の応答をし、原告は以降出勤しなくなった。

ところが、その後、原告労働者は、令和3年12月29日の被告の通知は解雇の意思表示であり、解雇に理由がないとして、賃金1年分相当の損害賠償を請求した。

なお、被告は、原告に解雇通知書及び解雇理由証明書を交付していた。

裁判所の判断

 被告は、〔被告が交付した〕解雇通知書及び解雇理由証明書は、原告から形式上解雇の方が助かるとして交付を依頼されたから交付したのであって、原告は、B理事長及び被告代表者の退職勧奨に応じて自主退職した旨主張する。
 しかしながら、被告の主張によっても、退職勧奨にかかるB理事長と被告代表者の発言は、「辞めてくれ。」、「12月いっぱいで辞めてもらいたい。」というもので、原告に同意を求めたというより一方的に解雇を伝える趣旨と解した方が自然であり、これに対する原告の返答も、「はあ、そうですか。」「それなら仕方ないですね。」というもので、積極的に退職に合意したというより、解雇による雇用契約の終了を受け入れるという趣旨と解する方が自然である。
 また、本件メッセージ等のやり取りにおいても、原告は、「12月退職で、以降金銭はトラブルを起こさないと約束」をすることについて「了解」と返したにとどまり、このやり取りからは解雇による退職なのか退職勧奨に応じた退職なのかを読み取ることはできない。

→以上より、令和3年12月29日のやりとりは、解雇の意思表示であり、解雇に理由がないことを理由とした損害賠償を認容した(賃金6か月分を損害とした)。

企業経営者側が注意すべきポイント

「解雇」と言う以外にも解雇の意思表示とされるケースは多い

本件では「12月いっぱいで辞めてもらいたい。」という発言が解雇の意思表示と判断されています。退職勧奨の提案のようにも見えますが、事実上の最高権力者であるB理事長の発言の存在と相まって、確定的な意思表示と評価されたと考えます。

退職勧奨を行う場合には、あくまで退職の提案であることを説明することも事案によっては必要となります。

退職合意書を交わすことの重要性

本件では「仕方がないという趣旨の応答」を原告がしており、被告としては、この応答が退職合意の根拠になっています。

しかし、裁判所は、会社からの退職勧奨に対する口頭での応答を退職の意思表示と認定しない傾向があります。これは、退職の意思表示は労働者にとって職を失う意思表示であるため(真摯な同意というか否かは別として)口頭で軽く行うものではないという価値判断があります。

また、メールのやり取りで退職を前提とするやり取りがあったとしても、趣旨が曖昧な場合(明確に退職しますという意思表示が明示されていない場合)には、退職の合意があったとは認定されないことが多いです。

そのため、退職の合意ができた場合には、退職届を取得するか、退職合意書を作成することが必要になります。

解雇できる理由は限定されていること

事業主側は、仮に解雇であったとしても、遅刻や態度不良などの問題行動を並べて「これだけ問題があったのだから解雇は妥当だ」と主張していました。

しかし裁判所は、単発性・改善指導の有無・頻度や期間を検討し、指導記録が伴わない問題行動の羅列は解雇理由として不十分と判断しました。

辞めてほしい従業員に対して「明日から来ないでほしい」という前に、解雇できるだけの資料があるか確認が欠かせません。

最後に

当事務所では、辞めさせたい従業員への対応に取り組んでいます。

本件のように「辞めてくれ。」、「12月いっぱいで辞めてもらいたい。」というのではなく、辞めてもらいたいと説明するための事実を整理するとともに、伝える際にも、トラブルになりにくい言い回しを選びます。また、退職勧奨であることを示し、一方的な解雇ではないということを伝えるなどの工夫もとることになります。

辞めさせたい従業員がいる場合には、解雇を通知する前に、一度ご相談ください。

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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