- すぐに支払わず、放置もしない。まず回答期限を確認し、デジタコ・運転日報・賃金台帳などの記録を保全する。
- 請求額はそのまま認められるとは限らない。休憩・停車時間、手当の性質、運行の実態を精査すると、請求額より低くなる余地がある。
- 反対に請求額が増えるリスクもある。運行手当などが残業代の支払いと認められない場合である。
- 解決と並行して賃金制度を見直す。同じ賃金制度で働く他の運転者に同じ請求が広がるのを防ぐためである。
請求が届いた直後にやること
回答期限を確認し、自己判断での支払いや放置をしない
代理人弁護士からの請求書には、多くの場合、回答期限と資料の開示要求が記載されています。
期限を過ぎても直ちに支払義務が確定するわけではありません。
しかし、回答がなければ、労働審判や訴訟に進む可能性が高まります。
速やかに弁護士に相談し対応を検討することになります。
デジタコ・運転日報などの記録を保全する
会社側の反論は、ほぼすべて記録から組み立てます。
請求が届いたら、次の資料を早急に確保してください。
保全すべき資料
- ☐ デジタルタコグラフのデータ(車載機・クラウド・解析ソフト内のデータ)
- ☐ 運転日報・乗務記録
- ☐ 点呼記録
- ☐ 運行指示書・配車表
- ☐ 賃金台帳・給与明細
- ☐ 雇用契約書・労働条件通知書
- ☐ 就業規則・賃金規程(過去の改定履歴を含む)
- ☐ 高速道路の利用記録、給油記録、荷主の受付・入出庫記録など、運行の実態を裏付ける資料
請求が届いた時点で、バックアップを取っておくことが重要です。
記録を書き換えたり、廃棄したりすることは決してしないでください。
労働審判や訴訟では、会社の主張全体の信用を失わせる結果になります。
トラックドライバーの残業代対応のポイント
運転日報・デジタルタコグラフの記録を確認する
運転日報とデジタコの記録は、運送会社であれば必ず残しているものです。
当事務所でも、トラックドライバーからの残業代請求では、まずこれらを確認します。
特に見るのは、次の3点です。
デジタコ・日報の確認ポイント
- ☐ 「休憩」の入力があるか、入力の時間帯と長さ
- ☐ トラックが動いていない時間があるか、その場所と長さ
- ☐ タコグラフが作動していた時間数と、実際の運行時間の関係
残業代を計算する前提となる「労働時間」は、判例上、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
運転していない時間でも、指示があればすぐに動ける状態で待機していれば(いわゆる手待ち時間)、労働時間と判断されます。
反対に、労働から離れることが保障されていれば、休憩時間として労働時間から除かれます。
当事務所では、記録を精査したうえで、たとえば次のような主張を行ってきました。
- 路上ではあるものの長時間停車している時間は、休憩時間であり労働時間ではない
- 「休憩」と入力されている時間は、労働時間から除外される
- タコグラフは起動しているが、「出庫」までの時間は休憩時間である
- ツーマン運行中の運転していない時間は、休憩時間である
ただし、これらの主張がいつでも通るわけではありません。
停車中に荷待ちをしていたのか、車両から離れて自由に過ごせたのかといった実態によって、結論は変わります。
会社に不利な記録も含めて全体を検討したうえで、どの主張を立てるかを選ぶことが重要です。
雇用契約書と就業規則(給与規程)を確認する
トラックドライバーの事案でよく争点になるのが、次の3点です。
- 「運行手当」などの手当が残業代として位置付けられるか
- コースごとの賃金が運行距離・時間に基づいて算定されているか
- 賃金制度が歩合給として機能しているか
会社が「残業代として払っていた」「出来高で払っていた」と主張している賃金であっても、裁判所は、残業代ではない、出来高ベースでの支給ではないと判断し、残業代が未払いであると判断されるケースは少なくありません。
このため、手当の性質、契約書での規定内容、賃金規程での計算方法などを元に、会社を守るための組み立てを行います。
運行ルート・荷待ち・作業内容を確認する
記録と規程に加えて、実際の運行の中身を確認します。
主な確認事項は次のとおりです。
- ツーマン運行の時間と、交代の方法
- フェリーを利用した運行の時間
- 荷待ちの際の待機方法(車両から離れられたか、呼出しにすぐ応じる必要があったか)
- 路肩での駐車時間が、待機時間に当たるか
ツーマン運行やフェリーの環境、過ごし方、入庫時間までの空き時間の有無など、実際の状況を元に、会社を守るための主張を組み立てます。
トラックドライバーの残業代請求が会社にとって危険な理由
長距離・長時間の運行では請求額が大きくなりやすい
長距離運行では、出庫から帰庫までの拘束時間が長くなります。
その拘束時間をそのまま労働時間として計算すると、請求額は大きくなります。
当事務所が対応した案件でも、記録だけを見ると1日20時間以上運転していることになっていたものがありました。
しかし、よく精査すると、実際の稼働は1日10時間程度と判明しました。
どの記録が疑わしいかは、トラックドライバーの事案に対応した経験があれば見当が付きます。
請求額を前提に交渉を始める前に、記録の精査を行うことが重要です。
退職後に過去3年分をまとめて請求される
残業代は、在職中には請求されず、退職を機にまとめて請求されることがあります。
残業代を請求できる期間は、過去3年分です(労働基準法115条、143条3項)。
さらに、退職後の未払賃金には、年14.6%の遅延損害金が付くなど(賃金の支払の確保等に関する法律6条)さらに損害が拡大します。
手当が残業代と認められないと請求額が大きく増える
運行手当などを残業代として支払っていたつもりでも、裁判所がそれを残業代の支払いと認めない場合があります。
その場合、影響は二重になります。
- その手当は残業代の支払いとして扱われず、残業代が未払いのままになる
- その手当は通常の賃金として、残業代の計算の基礎(時間単価)に組み込まれ、時間単価が上がる
その結果、請求額が大きく増えることがあります。
運送業の賃金制度では、この点が最も大きなリスクになりえます。
同じ賃金制度のドライバーに波及しかねない
運送会社では、多くの運転者が同じ雇用契約・同じ賃金規程で働いていることが一般的です。
そのため、退職者1人の請求であっても、同じ理屈が他の運転者にも当てはまります。
1人に支払えば、今後退職する運転者から同じ請求を受けるおそれがあります。
解決の内容を考える際には、この波及の可能性も踏まえる必要があります。
トラックドライバーの残業代請求の解決までの流れ
弁護士が会社の代理人となる場合、おおむね次の流れで進みます。
弁護士が代理人として受任通知を発送する
相手方本人または代理人弁護士に、当事務所が会社の代理人となったことを通知します。
以後の連絡窓口は弁護士に一本化されます。
そのため、経営者や担当者が直接対応する負担がなくなります。
記録を分析し、主張と解決水準を検討する
デジタコ・日報・規程等を分析し、実態に即した適正な額を算定します。
会社側の主張もこの段階で組み立てます。
あわせて、主張が認められなかった場合のリスクも検討します。
そのうえで、どの水準で解決するのが会社にとって合理的かを見定めます。
交渉・労働審判・訴訟に対応する
まずは代理人同士の交渉による解決を目指します。
交渉で解決しない場合は、労働審判や訴訟に進みます。
その中で反論を整理した書面を元に裁判官や相手方との交渉を行い、会社のダメージを最小限にする和解や判決を目指します。
口外禁止条項を含めた和解
和解では、解決金の額に加えて、解決の内容を第三者に口外しないことを約束する条項(口外禁止条項)を合意によって入れることを検討します。
他の運転者への波及を抑えるうえで、重要な条項です。
就業規則・雇用契約書・賃金規程を見直す
同じ請求が繰り返されないよう、雇用契約書や賃金規程を見直します。
たとえば、手当の趣旨と計算方法を明確にし、労働時間を適切に記録・管理できる仕組みを整えます。
少なくとも今後入社する運転者との間では、同じ争点が生じにくい状態にしておくことが重要です。
弁護士に相談すべきタイミング
稲田経営法律事務所は、トラックドライバーからの残業代請求について解決経験があります。
記録の精査と規程の分析をもとに、どのような結論になるかを見通したうえで、会社にとって有利な解決を目指します。
また、紛争になりにくい就業規則・賃金規程の整備も行っています。
このため、運送会社の経営者が労務トラブルを気にせずに本業に専念できる環境を整えます。
