Q 店舗閉鎖に伴う従業員退職の実務対応は?

店舗を閉鎖する場合に、その店舗にいた従業員に辞めてもらいたいと考えるケースは少なくありません。

今回は、最新裁判例を題材に、このようなケースで退職してもらう際の注意点を整理します。

裁判例

東京地裁 令和7年3月26日判決(労働判例No.1355)

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対応を誤ると、解雇無効やハラスメント主張など、会社側のリスクにつながります。労務問題対応の経験が豊富な弁護士が、具体的な状況に応じた対応方針をご案内します。

事案の概要

本事案は、飲食店を複数展開する会社(被告)が、令和3年11月に新規開店させた店舗の経営不振を理由に、当該店舗の従業員(原告)を解雇し、その有効性が争われたものです。

被告は同年9月に原告を採用し、新店舗の立ち上げ業務等に従事させていましたが、開店直後から想定を大幅に下回る売上しか上がらず、開店からわずか2週間ほどで閉店を決定しました。

被告担当者は原告との面談で閉店の経緯を説明し、他店舗への配置転換を打診したところ、原告は「ちょうど他社からも誘いを受けていた」といった発言をし、その場では同年12月末での退職を了承するような態度を示しました。

ところが数日後、原告は「年内退職は難しいため、再就職先が決まるまで雇用を継続してほしい」と一転して雇用継続を希望する旨を伝え、被告との間で雇用継続の可否について意見が食い違う事態となりました。

結局、被告はこの申し出には応じられないとして、経営悪化・店舗閉鎖に伴う整理解雇として、あらためて解雇の通知を行いました。

裁判所の判断

1 退職合意の成否

裁判所は、原告が面談時に退職を了承するような発言をし、当日中にグループLINEを退会して出社しなくなった事実を、「退職することを承諾したことをうかがわせる事情とはいえる」としました。

しかし、面談以前に退職に関するやり取りが一切なく本件面談が初めてであったこと、被告が退職届の作成等の手続を取っていないこと、面談の4日後に原告が雇用継続を希望する意向を示したことなどから、「原告が本件面談で確定的に退職の意思表示をしたとまでは認めるに足りない」として、退職合意の成立を否定しました。

2 整理解雇の成否

裁判所は、本件解雇を整理解雇と位置づけ、人員削減の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・解雇手続の相当性を総合考慮して判断するとしました。

本件店舗の大幅な赤字から人員削減の必要性は一定程度認めたものの、本件店舗開店から2か月たっていないことから「必要性が高いものであったとまでは直ちに認められない」としました。

また、被告が開店から1か月も経たないうちに閉店を決めたことから、「解雇回避努力を尽くしたとは認められ」ず、経営状況の具体的な説明もないことから「手続の相当性も十分なものであったとは直ちに認められない」としました。

3 結論

以上を総合し、裁判所は「本件解雇が、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとは認められないから、本件解雇は無効である」と結論付けました。

あわせて、原告に就労の意思・能力があった間の賃金債権を認め、被告は令和3年12月から原告が就労意思を喪失したと認められる令和5年6月まで(約1年7か月分)の賃金(中間収入の一部控除あり)の支払いを命じられました。

実務対応のポイント

1 退職届を取得することの重要性

本件では、面談の場で従業員が退職を了承するかのような発言をし、当日中にグループLINEを退会するなど、退職を裏付けるように見える事情がいくつも存在しました。

しかし裁判所は、こうした間接的な事情のみでは「確定的に退職の意思表示をした」とは認めず、退職合意の成立自体を否定しています。

退職を確定させたいのであれば、その場、または速やかに退職届・退職合意書等の書面を取得することが不可欠です。

その場で退職届を出してもらうというひと手間を惜しんだことで、本件では会社側に約1年7か月分の賃金支払義務という重い結果をもたらしています。

弁護士のコメント

直近で解説した別の裁判例でも、退職届がないということで、口頭での退職の意思表示が認められず、賃金の支払いを要したものがあります。当職らがサポートする場合、このようなミスが起きないように事前に退職届や退職合意書を準備し、面談に臨むように助言するなど、トラブルのない対応を整えます。

2 退職時期にこだわりすぎないこと

本件では、従業員が一度は年内退職を了承するかのような態度を示しながら、数日後には「再就職先が決まるまで雇用を継続してほしい」と意向を翻しています。

会社側がこの翻意を「話が違う」として一方的に整理解雇へ切り替えたことが、結果として解雇無効の一因となりました。

退職時期について従業員側の希望に多少の幅があっても、まずは合意退職としての着地を優先し、期日にこだわりすぎない柔軟な対応を取ることが、無用な解雇紛争を避けるうえで有効です。

弁護士のコメント

本件の場合、原告は、当初、再就職が決まるまでの間は雇用をしてほしいという要望でした。このため、たとえば、退職時期を3か月程度後ろ倒しにする、あるいは賃金3か月分程度を補償するという再提案をすることで退職合意を結ぶ余地があったように見受けられます。

当職らが退職勧奨に対応する場合には、あらかじめ、このような意見が出た場合に備えた解答案の検討などを御社と共に行い、速やかに退職を確定できるように準備をします。

3 解雇回避努力を尽くすこと

裁判所は、店舗開店からわずか1か月足らずで閉店を決定し、配置転換の打診以上に具体的な雇用維持策を採らなかった点を捉え、「解雇回避努力を尽くしたとは認められない」と判断しました。

整理解雇の場面では、配置転換の打診だけで足りるとは限らず、休業や労働時間の調整、他店舗での勤務条件の柔軟な提示など、可能な限りの手立てを尽くし、かつその経過を記録に残しておくことが求められます。

最後に:弁護士に相談すべきタイミングとは

店舗を閉鎖するようなケースでは、

  • 閉鎖に伴い従業員に辞めてもらう必要が出た段階
  • 退職時期について意見の違いが出た段階
  • 退職に反対する人が出た段階

では、弁護士に相談し、事後策を取ることをお勧めします。

このようなケースでは裁判例を見据えつつ、紛争にならない解決を考える必要があるためです。

当事務所では、このようなご相談に対しては、退職合意に向けた提案の整理、退職届の取得方法、退職面談での話し方などを助言します。また、整理解雇に踏み切るのが適切か否かを法律及び経営上の状況を踏まえて助言いたします。

このため、本件のように、退職合意や解雇が紛争となり、本件のように400万円を超える支払いが生じることを防ぐことができます。

弁護士のコメント

当事務所では、月額10万円(ケースによっては15万円)の6か月間の契約で、このような退職問題などをサポートしています。

退職トラブルが生じた場合には、賃金1年分以上が生じるリスクが高いため、まずは、初回相談で方針を確認してみることをお勧めいたします。

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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