私立学校が退職した教員から残業代請求を受けたら|教職調整手当・部活動・コマ給で問題になる点

労働審判
この記事の結論
  • 専任教員・常勤講師の手当が残業代とならず、多額の支払いを要するリスクがある。
  • 部活動、授業準備など注意すべき時間が多数存在する。
  • 早期に弁護士に相談し、予防を含めた戦略を立てて対応することが重要である。

はじめに

退職した教員から残業代を請求されたとき、「教職調整手当を払っているから残業代は不要」とは言い切れません。

今回は、私立学校が退職した教員から残業代を請求された場合の対応について、弁護士が解説します。

同じようなお悩みは、早めに弁護士へご相談ください

対応を誤ると、想定以上に請求額が膨らんだり、他の教職員への波及を招いたりするリスクにつながります。学校法人の労務問題に対応した経験のある弁護士が、具体的な状況に応じた対応方針をご案内します。

請求が届いた直後に確保すべき記録は

残業代の請求への対応は、弁護士に依頼するケースが多いと考えます。

この際に参考になりうる資料は次の通りです。なお、全てを準備する必要はありません。

  • ☐ 勤怠管理表・出勤簿(押印記録を含む)
  • ☐ タイムカード、PCのログイン・ログオフ記録
  • ☐ 給与規程、就業規則(手当・変形労働時間制に関する規定を含む)
  • ☐ 雇用契約書・労働条件通知書
  • ☐ 部活動の顧問配置・活動計画に関する資料
  • ☐ 変形労働時間制の労使協定(締結している場合)
  • ☐ 給与明細、賃金台帳

教職員の残業代請求が問題となる原因は

給与体系の特殊性

公立学校のように、教員に特別の手当を払う代わりに細かい時間管理はせず残業代の支払い対象から外すという運用をしている私立学校は少なくありません。

しかし、公立学校はいわゆる給特法がありますが、私立学校には給特法に値する法律がなく、労働基準法がそのまま適用されます。

そのため、公立学校と同じ管理をした結果、多額の残業代の支払いが必要になったり、労基署から是正勧告が出たりするケースが多くなります。

弁護士のコメント

実際に当職が対応した学校法人でも、労働時間管理が緩やかな(悪く言えば管理をしきれていない)法人がありました。教員の裁量に委ねているという考え方は理解できるところですが、労務問題となれば、緩やかな管理が法人にとって不利に働く面は否定できません。

フルタイムの教員の残業代請求でよく問題となるのは

フルタイムの教員の残業代請求でよく問題となるのは(手当・校務/部活動・変形労働時間制)

フルタイムの教員(専任教員や常勤講師と呼ばれる勤務形態の教員)の残業代請求では、手当の性質、部活動を含む校務の時間数、労働時間の把握方法が問題となり、金額が高くなるケースが多いです。

「教職手当」「職務手当」は残業代になるか

私立学校の残業代請求で最も大きな問題になるのが、「教職調整手当」です。名称は、教職手当、職務手当等と言われるケースもあります。

先に述べた通り、公立学校と同じ体系を採用した結果、未払い残業代が多数発生しているというパターンになります。

例えば、次のように、教職員全員に一律の手当を支給しているケースで、その手当は残業代ではないと判断され、その結果、480万円以上の支払いを要したケースもあります。

このため、これらの手当が残業代と言えるか、給与規程の規定内容、手当の金額の算定根拠(実際の残業時間等を元に金額が計算されているか否か等)、支給条件などを元にした反論が欠かせません。

(参考裁判例:一律に支給していた手当が残業代と認められなかった例・東京地裁平成28年2月26日判決・D1-Law.com判例体系 判例ID29017001)

専門学校を運営する学校法人で、授業と校務を担当する総合職の教職員として勤務した教員が、退職後に残業代を請求した事案です。教職員全員に月5万円の「業務手当」を時間外勤務(深夜・休日の勤務を含む)に対する固定残業代として支給していました。裁判所は、給与規程で業務手当が残業代に代わるものであることは明示されているものの、手当が教職員に一律に支給されていることから、時間外労働の対価ではなく、業務そのものに対する功労などの趣旨で支給されていると判断し、業務手当は残業代ではないと判断しました。手当が残業代と認められない場合、その手当は残業代の計算の基礎(時間単価)にも組み込まれるため、請求額はさらに大きくなります。その結果、約2年2か月分の残業代として、486万円余りの支払いが命じられています。

弁護士のコメント

この裁判例では、学校側は、所定終業時刻の後に勤務を指示したことはなく、教員は学校に残っていただけで労働時間ではないと主張しました。

あわせて、残業は教員の能力不足による不必要なものだとも主張しました。

裁判所は、学校から、勤怠管理表により在校時間を把握していたにもかかわらず、残業をしないよう注意や指導をしていなかったことから、黙示の残業指示があったと判断しました。

そのうえで、在校時間を労働時間と認めました。

能力不足の主張についても、指揮命令の下にある労働者の業務効率を理由に賃金の支払いを拒むことは相当でないとして、退けています。

能力不足の従業員への対応は別途の記事でも解説をしています。

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部活動等の校務や授業準備時間、生徒指導時間の扱いをどうするか

教員の業務は、授業以外にも広がっています。

残業代請求では、次の時間が労働時間に当たるかが争点になります。

  • 授業準備、採点の時間
  • 昼休憩の時間(生徒指導のために待機している場合は、手待ち時間として労働時間になるリスクがあります)
  • 生徒指導、保護者対応の時間
  • 部活動の指導の時間
  • 学校行事、大会の引率の時間

規程で休憩時間を定めていても、実際に休憩を取れていたことを示せなければ、休憩として扱われないことがあります。

また、そもそも労働時間を把握していないケース(例:出勤簿への押印等で出退勤を把握しているが、何時まで作業をしていたかをタイムカード等で記録していないケース)では、タイムカード等に残っている学校にいた時間が全て労働時間となるリスクもあります。

裁判になると在校時間から休憩時間を除いた時間が労働時間となりやすいです。少なくとも、生徒指導等について、「任意の取り組みである」「自主的な取り組みである」「本人の判断で行ったものであるから労働時間ではない」等の反論は、前記の専門学校の裁判例のように黙示の残業指示が認定される場合には、通ることはほとんどありません。

また、進学校など昼休みや放課後に質問に来る生徒の対応等が多い場合には、休憩時間すらないと判断されることもあります。

そのため、分掌業務の内容や他の先生方の作業の実態、実際の作業の内容等を元に、実際の労働時間を減らすための反論を試みることになります。

(参考裁判例:部活動の指導が「黙示の業務命令」とされた例・水戸地裁下妻支部令和6年2月14日判決・労働経済判例速報2547号3頁)

茨城県の市立中学校で吹奏楽部の顧問を務めていた教員が、うつ病を発症して自殺した事案です。裁判所は、校長は、授業準備や部活動にどれだけ時間を割くかを各教員の判断に委ねていたとしつつも、学校として全国大会を目指す方針であり顧問が覆すことは極めて困難だったことを理由に、黙示の業務命令があったとして、部活動の時間も労働時間と評価しました。

弁護士のコメント

学校は、上記の裁判例で、「部活動は本人の生きがいだった」等と主張をしていました。

しかし、裁判所は、業務である以上、使用者が業務の過重に注意すべきことに変わりはないと判断しています。

部活や生徒指導が本人の「生きがい」「やりがい」になることは非常に多いことですが、法人としては、管理すべき時間はしっかり管理することが大切となります。

一年単位の変形労働時間制は適法に運用されているか

私立学校ではここ最近、1年単位の変形労働時間制を導入する動きがあります。

夏休み等の所定労働時間を短く設定し、年度末などの所定労働時間を長くして1年全体の労働時間のバランスを取ろうという試みです。

ただし、この制度は、労使協定が必要となります。この労使協定の従業員の代表者の選出方法が法律上の要件を満たしていないとの問題が多く発生しています。

前記の専門学校の裁判例でも、労使協定が教職員の中から選ばれた代表者と締結されたと認める証拠がないとして、1年単位の変形労働時間制の適用が否定されました。

年度初めのシフト表の作成に教職員が参加していたことも、労使協定の代わりにはならないとされています。

また、1年単位の変形労働時間制では算定期間の最初(年度初めなど)に1年間の所定労働時間を定める必要がありますが、これが定められていないケースがあります。

また、本来は平均して週40時間以内に収まるように組む必要があるにもかかわらず、最初から残業も込みで週50時間と指定するなど、残業ありきで時間数を設定しており、変形労働時間制が無効となるケースもあります。

ここまでのまとめ

フルタイムの教員の残業代請求は、賃金体系の問題、労働時間の把握や稼働内容等の労働時間の問題、変形労働時間制の適否など幅広く問題となります。

そのため、個別の内容を踏まえた反論が不可欠です。

非常勤講師の残業代請求

非常勤講師の残業代請求(労働時間の問題・コマ給の問題)

本記事では、授業単位などで勤務し、フルタイムではなく、1年などの契約期間の定めのある教員を「非常勤講師」と呼びます。

労働時間の問題

基本的な考え方は、フルタイムの教員と同じです。

非常勤講師では、特に次の時間が問題になります。

  • 授業前後の生徒からの質問への対応
  • 授業準備、採点
  • 会議への出席

非常勤講師は1日8時間を超えて働くことが少ないため、割増賃金よりも「支払われていない時間の賃金」そのものが問題になりやすいという特徴があります。

契約で定めた時間を超えても、1日8時間・週40時間の範囲内であれば、割増は不要です。

しかし、その時間分の通常の賃金は発生しえます。

複数の学校を掛け持ちしている場合は、労働時間の通算(労働基準法38条1項)が問題になることもあります。

「コマ給」の問題

非常勤講師の給与は、授業1コマ単位の「コマ給」で定められていることがあります。

このとき争点になるのが、コマ単価が何時間分の労働に対する賃金か、という点です。

当事務所でも、コマ単価が何時間分の賃金かが争いとなった事案に対応したことがあります。

たとえば、次の点が問題になります。

  • コマ給に、授業準備の時間が含まれているか
  • 含まれているとして、何時間分の準備を想定しているか

契約書や就業規則の記載、採用時の説明、実際に必要な準備の量などによっては、授業準備の時間について別途賃金が発生すると判断されることがあります。

また、授業準備を含めた総労働時間で割ると最低賃金を下回る場合も、問題になります。

私立学校の残業代請求の解決までの流れ

私立学校の残業代請求の解決までの流れ

当事務所にご依頼いただく場合、次のようなステップで対応します。

これにより、教職員に対し不当に高額な残業代の支払いを行うことを防ぐとともに、他の教職員や新たに入ってくる教職員への波及を防ぎ、学校経営に専念できる環境を整えることができます。

弁護士が代理人として受任通知を発送する

相手方本人または代理人弁護士に、当事務所が学校法人の代理人となったことを通知します。

以後の連絡窓口は弁護士に一本化されます。

記録を分析し、主張と解決水準を検討する

勤務の記録と規程を分析し、実態に即した適正な額を算定します。

あわせて、教職調整手当が否定された場合のリスクも検討し、どの水準で解決するのが学校法人にとって合理的かを見定めます。

交渉・労働審判・訴訟に対応する

まずは代理人同士の交渉による解決を目指します。

交渉で解決しない場合は、労働審判や訴訟に進みます。

労働審判は、原則として3回以内の期日で審理される手続です。

実務上、第1回期日までに学校側の主張と証拠をほぼ出し切る必要があるため、記録の分析を早く始めておくことが重要です。

口外禁止条項を含めた和解

和解では、解決の内容を第三者に口外しないことを約束する条項(口外禁止条項)を、合意によって入れることを検討します。

他の教員への波及を抑えるうえで重要な条項です。

給与規程・勤務管理を見直す

同じ請求が繰り返されないよう、次の点を見直します。

  • 教職調整手当の位置付け(固定残業代とするのであれば、その要件を満たす設計にする)
  • 部活動の業務としての位置付けの整理(活動時間の上限、下校時刻延長の承認基準、休日の活動日数、顧問の複数配置など)
  • 労働時間の客観的な把握の仕組み(タイムカード、PCログなど)
  • 変形労働時間制を採用している場合は、労使協定の締結手続(教職員の過半数を代表する者の選出方法を含む)まで点検する

在籍している教員の給与体系を変更する場合は、労働条件の不利益変更(労働契約法9条・10条)の問題があるため、慎重な検討が必要です。

最後に:稲田経営法律事務所が力になります

稲田経営法律事務所では、実際に教職員による残業代請求に対応した経験のある弁護士が、残業代請求への対応、労基署への対応、さらには再発防止のための規程整備まで、対応を行います。

最後まで直接対応いたしますので、貴法人の実情を踏まえた解決が可能となり、安心して経営に専念できる環境を整えることができます。

継続的なご相談は顧問弁護士サービスをご検討ください

教職員対応は、単発の相談だけでなく、日頃から気軽に相談できる体制があることで、初動対応のスピードと質が大きく変わります。稲田経営法律事務所の顧問弁護士サービスでは、学校法人の労務トラブル全般について継続的にサポートします。

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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