ミスが減らない部下をどう指導するか|叱責が労災と判断された裁判例から学ぶ3つの確認点

この記事の結論
  • 繰り返し指導してもミスが減らない部下への叱責の心理的負荷を「強」と判断し、自死について労災を認めた事案がある。
  • 指導すべき理由があっても、言い方が社会的相当性を逸脱すれば、業務上の必要性によって心理的負荷が軽くなることはない。
  • 残業を認めないまま丁寧な事務処理を求めるなど、両立できない要求を同時に課していないか確認する。
  • 叱責する前に、失敗の原因が上司側の指示にないかを確認する。

はじめに

何度指導してもミスが減らない部下への対応に悩む管理職は少なくありません。

言い方がエスカレートした結果、指導がパワーハラスメントとされ、労災認定や損害賠償請求につながります。

今回取り上げる裁判例は、指導すべき理由自体は裁判所も認めたうえで、その指導による心理的負荷を「強」と判断したものです。

指導の必要性と、指導の許される範囲は別の問題であることを示す裁判例として、以下で解説します。

裁判例の概要

裁判例の情報

名古屋高裁令和6年9月12日判決(労働判例1356号61頁)

事案の概要

亡くなった一郎(当時30歳)は、会社Y(信用金庫)のC支店で得意先係主任を務めていた職員です。上司として、D支店長とE次長がいました。

一郎には、事務処理にミスが多く、渉外活動日報の手書き部分が乱雑に記載する等の課題がありました。

D支店長は、一郎に対して、他の職員と比較しても特に厳しく叱責しており、平成29年4月頃には、「バカ野郎!」「横領してるからそうなるんじゃないか」「無駄に仕事してるふりしてるなら客をとってこい!」などと述べていました。

さらに、一郎は顧客対応が長引いて店舗に戻るのが午後4時を過ぎ、事務処理の時間を確保できないことがありましたが、D支店長とE次長からは打刻後は速やかに帰宅するよう指導されており、残業は認められていませんでした。

昼休憩に昼食をとらないことについても、D支店長から「昼食をしっかりとらないと人事考課を下げるぞ」「昼休憩をしっかりとらないのはコンプラ違反だ」等と述べていました。

E次長の指導は事務面の細部にまで及び、D支店長よりも長時間かかることが多いものでした。

平成29年5月24日に、一郎は自死し、遺族が労災補償給付の請求をした事案です。

裁判所の判断結果

名古屋高裁は、上司による日常的な指導・叱責による心理的負荷を「強」と判断しました。

そして、他の出来事と合わせた全体の心理的負荷も「強」であるとして、精神障害の発病と自死の業務起因性を認め、不支給処分を取り消しました。

裁判所の判断

裁判所は、信用金庫の営業職として金銭に関わる事務処理の正確さや丁寧さが求められること、同じような不注意による単純ミスや乱雑な記載が繰り返されていたことからすれば、「D支店長が上司として一郎に対し事務処理の改善を促すため叱責することは、それだけで直ちに合理性を欠くということはできない」としました。

しかし、叱責の態様は強い表現を用い大声で激しく行うものであり、一郎が他の職員と比較しても特に厳しく叱責されていたことから、叱責の内容に事務処理の改善を促す趣旨のものが含まれていたとしても「業務上必要かつ相当な範囲を逸脱するものといわざるを得ない」と判断しました。

その上で、一郎に対するD支店長およびE次長による日常的な指導等は「継続的に二律背反の事実上不可能なことを強いるものであ〔り〕心理的負荷の程度は「強」に該当する」と結論づけています。

補足・心理的負荷が「強」の意味

心理的負荷が「強」と評価されることは、単に「厳しい指導だった」という評価にとどまりません。

精神障害の労災認定では、業務による心理的負荷が「強」と評価されれば業務起因性が認められます。本件のように自死に至った事案であれば、その死亡が業務によるものと判断されたことを意味します。

そして、業務が原因であると判断された以上、その後に遺族から会社に対して、安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求がされることになります。

その賠償額は高額になります。死亡事案では逸失利益が賠償額の中心となるところ、一郎は死亡当時30歳であり、定年までの就労可能年数が長いため、逸失利益だけで相当な額になります。これに死亡慰謝料が加わり、パワーハラスメントを背景とする死亡事案では2000万円を超える水準が想定されます。

これらを合計すると、賠償額が1億円を超えることも見込まれます。

本判決からわかる指導の注意点

弁護士のコメント

本判決では、事務ミスや誤字のある従業員に叱責や怒声を繰り返す指導を行っています。

しかし、この方法では事務ミスや誤字は減りませんし、エスカレートしてパワハラや労災自死につながる危険が高まります。

本当に問題行動を治すためには、その原因に着目しつつ、行動を促す指導が欠かせません。

事務ミスや誤字が改善しないケースでも指導の言い回しに注意する

本件では、繰り返し指導しても一郎の事務処理上のミスが減らず、字も乱雑なままであったことが認定されています。裁判所も、事務処理の改善を促すために叱責すること自体は否定していません。

しかし、「バカ野郎!」「横領してるからそうなるんじゃないか」「給料泥棒」といった言い回しは処理の改善を促すための表現とはとても言えません。ミスなどを減らす方法を指摘するものではないためです。

指導の際にはその言い方が改善につながるか、検討することが重要です。

弁護士のコメント

裁判所は、「叱責について、業務上必要と認められる部分があったとしても、叱責の態様等が社会的相当性を逸脱している場合には、業務上の必要性によって心理的負荷が軽くなるものではないから、業務上の必要性があったことを心理的負荷の軽重の判断において重視することは相当でない」と判断しています。どれだけミスの多い従業員であっても乱暴な言い方は許されないという基本的な内容を再確認することが重要です。

過大な要求となっていないか(不可能を強いていないか)確認する

本判決が最も重視したのは、一郎が置かれていた状況そのものです。

一郎は、残業を認められていませんでした。勤務時間内に丁寧でミスのない事務処理を行うには、昼食時間を削るか、顧客対応の時間を削るしかありません。

しかし顧客対応の時間を削れば、営業目標が達成できずにさらに罵倒されます。一方、昼食をとらなければ「人事考課を下げるぞ」と言われます。

判決は、この状態を「二律背反の進退窮まった状況」と表現し、「両立させることが困難な状況において、上司は、それらの両立を要求してはならないというべき」と述べています。

個々の指導が正当に見えても、複数の要求を並べた結果、部下にとって実行不可能な状態になっていないかを確認する必要があります。

弁護士のコメント

「残業せずに納期内に仕事を終わらせよ」との指示を出すことが必要なケースは確かにあります。ただ、その仕事が通常の従業員であれば納期内に余裕を持って終わるような業務かなどを確認した上で指示を出すことが必要と考えます。

上長側の落ち度の有無を確認する

自死の直前にあった住宅ローン案件に関する叱責について、判決はとくに厳しい評価をしています。

一郎は、この案件について約1年前から時間をかけて慎重に対応していました。ところが、D支店長から同意書を取得してくるよう指示され、これに従ったことによって、契約締結が実現しませんでした。

判決は、契約締結が実現しなかった責任は指示をしたD支店長自身にあるとしたうえで、その叱責を「自分の指示が不適切であったことを棚上げして、失敗した全ての責任を一郎に押し付けようとする理不尽なもの」であり、「本来は、D支店長が、自分の指示が不適切であったことを一郎に謝罪すべきもの」であるとしています。

そして、そもそも「叱責しなければならない業務上の必要性自体が認められない」と判断しました。

失敗が起きたとき、その原因に自らの指示や段取りが含まれていないかを、叱責の前に確認してください。原因が上司側にある場合、叱責はそもそも指導になりません。

弁護士に相談すべきタイミング

ミスを繰り返す従業員について、他の従業員にしている指導が功を奏しないような場合には、弁護士に相談することをお勧めします。

このような場合には、指導方法が適切か、どのようにすれば改善につながるかを確認しながら会社とともに改善に向けたアプローチをしていきます。

これにより、指導がパワハラ等となる本件のようなリスクを抑えることができます。

また、叱責だけではない改善プロセスを利用し指導にかかる負担を減らすことができます。

最新裁判例ハラスメント休職・メンタル不調

同じようなお悩みは、お早めのご相談をおすすめします

電話する 無料相談