- 懲戒解雇は普通解雇よりも厳しく審査されるため、解雇の方法は慎重に選択する必要がある
- どの解雇であっても、指導経過を残すことが重要である
- 解雇を検討する前に弁護士に相談し、戦略を立てることが重要である
はじめに
再三指導をしても改善をしない従業員がいるケースで、会社としては解雇を含めた対応を検討することもあります。
ただ、当職もご相談の中で「懲戒解雇」を希望される場合には、懲戒解雇よりも普通解雇、あるいはそれよりも退職勧奨での退職を提案することが多いです。
今回は、その理由と解雇の選び方の注意点を、一つの裁判例を題材に解説します。
同じようなお悩みは、早めに弁護士へご相談ください
対応を誤ると、解雇無効やハラスメント主張など、会社側のリスクにつながります。労務問題対応の経験が豊富な弁護士が、具体的な状況に応じた対応方針をご案内します。
裁判例
基本情報
東京地方裁判所令和8年1月30日判決・労働経済判例速報77巻22号(通算2621号)10頁
事案の概要
会社は、医療機関を中心として建築の設計・管理・コンサルティング等を業とする株式会社です。
原告となる従業員は、平成26年に採用され、設計部等で支援業務に従事していました。
会社は、この従業員に次のような行為があったと主張しました。
- 業務の指示を拒んで書類を机に叩きつけ、無断で帰宅した行為(平成29年5月)
- 指導書の受領を拒否した行為(平成30年5月)
- 業務命令に反して電話に出ず、注意されるとごみ箱を蹴り、電話記録帳に大便の落書きをした行為(令和元年5月)
- 依頼された作業を期限内に完了せず、引継ぎもせずに休暇を取得した行為(令和3年6月)
また、会社は解雇の約3か月前にあたる令和5年2月22日、業務に対する取組姿勢において積極性に欠けるなど6つの問題事項を示した指導書を交付しましたが、従業員は同月28日、この指導書には従いかねる旨を記載した書面を提出しています。
このため、会社は、令和5年6月30日付けで懲戒解雇とし、予備的に同日付けで普通解雇とする意思表示をしました。
判断内容
裁判所は、原告の行為、特に電話記録帳を毀損した行為は「特に重大な非違行為」であり、これらを含めた言動について「相応の懲戒処分を受けることはやむを得ない」としました。
もっとも裁判所は、特に重大な非違行為といえるこの行為から懲戒解雇までの間に約4年もの期間が経過しており、その間に原告が合計約2年間の育児休業を取得していることを踏まえても、原告は一定の業務については問題なく従事していたと推認されること、また懲戒処分歴がないことからすれば、「本件懲戒解雇は、重きに失するものといわざるを得ない」として、懲戒解雇を無効と判断しました。
実務に活かすポイント
過去の行為を持ち出して懲戒解雇をすることは危険
本件では、解雇直前の指導書への反発が懲戒解雇の引き金になったと推測されます。
ただ、それでも最も古い行為は6年以上前のものであり、そのような行為を並べて懲戒解雇に踏み切るのは悪手です。
時間の経過により企業秩序は回復済みと評価され、処分が重きに失すると判断されるリスクがあります。

弁護士のコメント
過去に当職が扱った事案でも1年以上前の事案で懲戒処分を試みた結果、トラブルとなった事案に対応したことがあります。この事案では、1年前の時点で就業規則が周知されていないため、1年前の事案を理由に処分ができないケースでした。過去に遡って処分をしようとすると期間の経過以外にも複数の問題が生じかねません。
指導等の証拠がないと懲戒解雇は困難
裁判所は、約4年の間、原告は一定の業務については問題なく従事していたと推認しました。
もっとも当職の経験からすれば、この種の事案では、問題行為がなかったのではなく、会社が指導も記録も諦めていたために、問題行動があったにもかかわらず証拠が残っていなかった可能性があります。
本件でも、会社が従業員の反発を恐れて対応を控えた経過が認定されています。
電話記録帳については、従業員からの反発等をおそれたため、その後この記録帳を使用する運用自体が消滅したとされています。
令和3年6月の作業放置についても、取締役が反発等をおそれたため、それ以上の指導は行われなかったと認定されています。
懲戒解雇にこだわらず普通解雇を視野に入れた対応
一方で、予備的にされた普通解雇は有効と判断されました。
裁判所は、約4年間、原告が一定の業務については問題なく従事していたと推認しつつ、その間、会社が配転可能な部署が存在する限り部署異動を重ね、反発を避けるような対応をするといった努力をしたことを認定しました。
その一方で、従業員はその後も作業を放置するという懲戒事由該当行為に及び、その際も指導を受け入れず、解雇の約3か月前に交付された指導書にも従いかねる旨を回答しており、勤務態度は改善されていなかったとしています。
こうした事情を踏まえ、普通解雇事由である就業規則12条2号の「業務に非協力で協調性を欠くとき」及び同条3号の「勤務成績、勤務態度が著しく不良であるとき」に該当すると判断したことは「無理からぬものがある」とされました。
ポイントは、懲戒解雇とは異なる考慮要素である指導の経過や配転可能性が考慮されている点です。
懲戒解雇は懲戒事由という個々の点が判断の中心となりますが、普通解雇は入社から退職までのすべての経緯における個別の事情を踏まえるため、考慮要素が広くなります。
最後に
本件のように過去の事由に基づいて懲戒解雇をすることには、大きなリスクがあります。
当職としては、遅くとも懲戒解雇を含めた解雇を検討する段階、解雇に踏み切る決意をした段階で、弁護士に相談することをお勧めします。
懲戒解雇の有効性は特に厳しく吟味されるため、裁判例等を踏まえた適切な見通しとそれを踏まえた対応策(予備的に普通解雇の意思表示を行うことを含む)が欠かせません。労務問題に注力する弁護士であれば、実際の裁判の結果や経験も踏まえつつ、見通しと対応策を立てることができるためです。
監修弁護士の紹介
稲田拓真(岡山弁護士会)
岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。


