育児休業から復職する従業員について、休業前と異なる部署・職務に配置することは、会社の人員配置上やむを得ない場合もあります。しかし、復職と同時に大きな賃金減額を伴う配置転換を行う場合には、育児・介護休業法上の不利益取扱いや配転権濫用の問題が生じます。パナソニックリビング事件(東京地方裁判所 令和8年2月18日判決)は、この点について実務上参考になる裁判例です。
事案の概要
原告は、育児休業取得前まで支店で外勤営業職として勤務しており、外勤手当(月額5万3220円。基礎月収の約20%相当)の支給を受けていました。
原告は令和4年10月10日から令和5年1月9日まで育児休業を取得し、同月10日に復職しましたが、会社は復職と同時に原告を内勤職へ配置転換しました。
その結果、それまで支給されていた外勤手当も不支給となりました。
そうしたところ、原告は、この配置転換が育児休業を理由とした不利益取扱いに当たるなどとして、外勤手当の支払や損害賠償等を請求しました。
裁判所の判断
裁判所は、育児休業からの復職時に行われた最初の配置転換について、会社に一定の業務上の必要性があったこと自体は認めました。会社は、育児休業期間が延びる可能性や、年度末の繁忙期に担当者の変更を避けることで連絡ミス・発注ミスを防ぐことなどを理由としていました。
しかし、原告を外勤営業職として復帰させた場合に具体的なミスや業務上の支障が生じることまでは認められず、会社が主張する業務上の必要性はやや抽象的であると評価されました。これに対し、原告には月額5万3220円の外勤手当が不支給となるという経済的不利益がありました。
また、会社の育児休業規程では、復職後の職場・職務は原則として休業直前のものとする旨が定められていました。裁判所は、育児・介護休業法10条が育児休業等を理由とする不利益取扱いを禁止している趣旨も踏まえ、業務上の必要性と労働者の不利益を比較するに当たっては、会社側の業務上の必要性が労働者の不利益を相当程度上回る必要があるとしました。
その結果、復職時の内勤職への配置転換は配転権の濫用として無効とされ、約3か月分の外勤手当及び慰謝料20万円等の支払が認められました。一方、その約3か月後に行われた新設部署の営業職への配置転換については、年度初めの定期異動の一環で業務上の必要性があり、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益もないとして有効と判断されています。
弁護士による裁判例の分析
復職時に別部署へ配置すること自体が直ちに違法になるわけではない
育児休業中は、他の従業員への業務引継ぎや組織変更が行われることもあり、復職時に休業前と全く同じ部署・職務へ戻すことが難しい場合もあります。そのため、業務上の合理的な理由があれば、復職時に別部署へ配置すること自体は理解できる対応です。
約20%に相当する賃金減額は不利益として大きい
もっとも、本件では単に部署や職務が変わっただけではなく、配置転換に伴って月額5万3220円の外勤手当が不支給となりました。この手当は基礎月収の約20%に相当するため、復職と同時に生じる経済的不利益としては小さくありません。裁判所が最初の配置転換を無効と判断するに当たっても、この賃金上の不利益が重要な事情となっています。

弁護士のコメント
異動等に伴う賃金の削減幅について10%を超えてくると、不利益が特に大きいと見られる傾向があります。ただ、裁判所は、5%程度の減額も不利益の程度は小さくないと評価をしています。異動に伴い賃金を減額するのであれば、下がり幅を5%以内に調整することが望ましいですし、また、下げる場合にどれだけ業務の負担が減るかを、できる限り定量的に説明することが大切となります。
役職・職務内容やキャリア上の不利益にも注意が必要
育休復帰後の処遇については、賃金だけでなく、職務内容、役職、部下の有無、将来のキャリア形成への影響なども問題になります。
過去の裁判例でも、育休前には部下を持つ管理的な立場にあった従業員を、復職後に部下のいないポジションへ配置したことについて、不利益取扱いが問題とされた例があります。
したがって、給与が維持されていれば問題がないというものでもありません。
賃金を維持するための調整手当も検討する
実務上、育児休業中の組織変更などによって従前と異なる部署へ配置せざるを得ない場合には、配置変更の必要性だけでなく、その結果として従業員にどの程度の不利益が生じるのかを具体的に確認することが重要です。
特に、配置転換によって従前の手当がなくなり、大幅な賃金減額が生じる場合には、一定期間、調整手当などを支給して従前の賃金水準を維持する方法も検討に値します。復職直後から大きな経済的不利益を生じさせない配慮をすることで、紛争リスクを抑えることにもつながります。
復職時の配転では「必要性」と「不利益」をセットで検討する
企業としては、復職先を決める際に、①元の部署・職務に復帰させることが可能か、②別部署へ配置する業務上の必要性を具体的に説明できるか、③賃金・役職・職務内容・キャリアにどの程度の不利益が生じるか、④その不利益を調整手当や経過措置などで緩和できないか、という観点から検討することが重要です。
育児休業からの復職時の人事措置については、「配置転換できるか」だけでなく、「その配置転換によって本人にどのような不利益が生じるか」を併せて検討することが欠かせません。
監修弁護士の紹介
稲田拓真(岡山弁護士会)
岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。


