Q 誤字や脱字を繰り返す従業員への対応は?

問題社員

「何度注意してもミスが減らない。他の社員にも迷惑がかかっている。もうこの社員に辞めてもらうしかない」——そう感じながらも、どう動けばいいのかわからずに時間だけが過ぎていく。そんな社長は少なくありません。

この記事では、能力不足・事務ミスを理由とした解雇のリスクと、実際に問題社員への対応を進めるために必要なステップを、具体的な裁判例をもとに解説します。

誤字や脱字を繰り返す従業員の解雇がトラブルとなった例はあるのか

従業員の解雇が無効となるケースは

誤字や脱字を繰り返した原因や状況によっては、誤字脱字を繰り返していても、裁判所は、解雇を無効と判断することがあります。

例えば、熊本地裁 令和5年3月24日判決(控訴棄却・上告棄却)では、新卒従業員が誤字脱字を多発させたこと等を理由に、使用者が解雇(分限免職)しました。裁判所は分限免職を無効と判断し、処分を取り消しました。この結果、使用者は、職員に賃金2年半分以上の支払いが必要になりました。

【参考裁判例】熊本地裁 令和5年3月24日判決(控訴棄却・上告棄却)

この事案は、新卒従業員が、誤字脱字等を含む読みにくい報告書を提出する、ファイリングを誤る等の問題を繰り返したため、分限免職とした事案です。

裁判所は、係長や主査からの指導を原告が素直に受け止め、両名の指導に反発したり自己の考えを押し通そうとしたりするなどの改善の意欲に欠ける行動に出ていたとは窺われないこと、係長や主査は、原告に自らの指導が伝わらないことについて特段の工夫をしていないし、特に原告の質問に対して質問で返したり、自らは椅子に座り原告を立たせたまま指導したりする手法は、原告にとって分かりにくく失敗を責めるようなものとなっており、原告を更に萎縮・困惑させて自らの考えを述べたり、業務に関する質問をしたりすることが困難な状況を作りだしていたこと、D係長及びE主査が業務以外の話をするなど原告とのコミュニケーションを積極的に取ろうとしていたとは窺われないことからすれば、原告が上司からの指導を受けて十分に改善を図れなかったことについては、原告を指導する立場にあったD係長及びE主査の側にも相応の原因があり、原告に対する指導・支援体制は十分でなかったというべきである等として、分限免職を無効と判断しました。

弁護士のコメント

裁判所は特に新卒採用者や未経験者については、指導方法を改めれば改善する余地はなかったのかを見ています。「きつい指導」の場合、裁判所は指導の方法に問題があったと判断しやすいです。そのため、指導方法や指導に対する労働者側の態度が解雇の可否を判断する際に重要となります。

反対にどのような場合に解雇ができるのか

従業員に対する指導方法、指導に対する従業員の態度などから改善の余地がない場合には、解雇も可能となるケースがあります。

例えば、大阪高裁令和7年7月29日判決では、同じく誤字や脱字等を理由とした解雇が有効となりました。

通常の指導に対して「困惑した」と述べたり、指導後すぐに体調不良になったりしたという従業員側の対応が重視されたためです。

大阪高裁令和7年7月29日判決

上記の事案で、裁判所は「被控訴人〔注:労働者〕が、D調整監からの指導を受けた翌日から休暇を取得した上、直接の上司ではない同人から指摘を受けるのは筋違いであり混乱している旨を述べ、これを受けて、被控訴人の上司らにおいて、被控訴人に対する業務上の指示はC担当長から行う方針としたこと、被控訴人は、自身の仕事の不備を指摘されるなどした後に体調不良となることが複数回あり、退庁したり休暇を取得したりしたこともあったことからすると、被控訴人の上司らにおいて被控訴人の仕事や行動について問題を認めた場合でも、被控訴人への適時の指導は容易でなかったことがうかがえる。

Q 具体的な対応方法は?

解雇の前に準備すべき事項は、ミスの記録を残すこと、改善指導を書面で行うこと、必要に応じて配置転換等の解雇を回避するための手段を講じることなどです。これらを経ても改善しない場合に解雇が選択肢に上がります。

① ミスの記録を残す

どのようなミスが、いつ、何件発生したかを記録します。「誰がみても問題がある」と客観的に示せる記録が必要です。ミスの内容だけでなく、それが業務にどのような悪影響(顧客クレーム・他社員への負担・売上への影響等)をもたらしたかも合わせて記録しておくと、解雇理由の「合理性」を補強できます。

② 「改善指導」を書面で行う

口頭注意だけでは足りません。「指導書」や「業務改善指示書」を作成し、本人に交付・署名させることが重要です。指導書には、具体的なミスの内容、改善目標、改善期限、達成できない場合の対応(配置転換・退職勧奨・解雇等)を記載します。

また、前述の裁判例を踏まえると、叱責よりも「具体的に何をどう改善するか」を本人と一緒に確認するプロセスが有効です。チェックリストの導入、確認プロセスの手順化など、本人が「ミスを自分で防げる仕組み」を与えることが求められます。

③ 改善しない場合は段階的に対応する

指導を繰り返しても改善が見られない場合は、指導方法の改善や配置転換など「解雇の前段階」の措置を検討することも、解雇の相当性を補強します。いきなり解雇では「他に手段があったはずだ」と判断されるリスクが高くなります。実際、上記の参考裁判例は、この点が問題となり解雇が無効となりました。

Q 弁護士に対応を依頼するメリットは

弁護士に相談した方が良いケース

例えば次のようなケースでは弁護士に相談しながら解雇を見据えた対応を取ることが重要です

  • 2ヶ月程度面談などで指摘をしているがミスが減らない
  • 試用期間の終わりまで2ヶ月を切っているが、ミスが減らない
  • 誤字や脱字のミスを原因として取引先や社内対応で問題が生じた
  • 即戦力で採用した従業員が基本的な誤字やミスを繰り返す
  • 本人から「弁護士に相談した」「労基署に申告する」などの発言があった段階

弁護士はどのような対応をするのか

弁護士に依頼することで、次のようなサービスを受けることができます。

  • 誤字脱字やミスの具体的な証拠や状況を確認する
  • 業務日報や厳重注意の方法を検討する
  • 業務指示書などの書面を代筆し解雇に向けた証拠を残す
  • 業務日報の作り方や使用者からのコメントを代筆する
  • 指導時の言い回しや伝え方を整理した台本を作成する
  • 退職勧奨等の面談に同席して話をする


これによりそもそも問題にならずに従業員に辞めてもらうための算段を立てることができ、安心して経営に専念できます。

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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