社員から「業務を配慮してほしい」と言われたときの対応|診断書の確認から個別合意・休職まで

休職・メンタル不調
この記事の結論
  • まず、体調等を踏まえて、本当に業務上の配慮が必要かどうかを診断書などで確認する。
  • 配慮が必要であれば、その配慮を実現できる業務が社内にあるかを検討し、対応を講じる。
  • 求められる配慮の内容によっては、休職を命じることになる。

はじめに

従業員に業務上の指導をしたところ、「私は●●なので、仕事の内容を配慮してください」と申し入れられることがあります。

会社はどのように対応すべきでしょうか。今回は、このようなケースでの対応の順序を弁護士が解説します。

同じようなお悩みは、早めに弁護士へご相談ください

対応を誤ると、解雇無効や安全配慮義務違反の主張など、会社側のリスクにつながります。労務問題対応の経験が豊富な弁護士が、具体的な状況に応じた対応方針をご案内します。

従業員の「配慮」の要求への対応がトラブルとなるケースは?

指導をした直後に「配慮してほしい」と言われると、指導から逃れるための言い分ではないかと感じることもあると思います。

この時、対応がトラブルになりやすいのは次のようなケースです。

法律上必要な配慮をしなかったケース

配慮の要請のうち、育児及び介護に基づく配慮の要請は、育児介護休業法により、一定の配慮が必要となります。これにもかかわらず、法律上必要な時短勤務を実施しなかったというケースでは、制度の利用の妨害に関するトラブルにつながります。

そのほか障害者に対しては合理的配慮を講じる必要があります。合理的配慮については、今回の記事の対応フローに沿って検討をすることで問題なく対応できるケースも多いと考えます。

他の従業員に負荷が生じるケース

根拠を確認しないまま業務を減らすと、減らした業務は他の従業員に回ります。

その結果、他の従業員から「なぜあの人だけ」という不満や苦情が出ることがあります。

また、一度認めた配慮は先例になります。

他の従業員から同じような申し入れがあったときに、断る理由を説明しにくくなります。

このため、配慮に応じる場合でも、根拠・内容・期間を確認し、書面で合意しておくことが重要です(後述)。

配慮ができないとして休職にするリスク

反対に、「うちには軽い仕事はない」として、検討もしないまま休職を命じたり解雇したりすると、その措置が違法・無効と判断されるリスクがあります。

最高裁は、職種や業務内容を限定せずに雇われた労働者について、次のように判断しています。

(参考裁判例:片山組事件・最高裁平成10年4月9日判決)

労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。

つまり、今の業務が十分にできなくても、会社内に現実的に配置できる別の業務があり、本人がその業務での就労を申し出ていれば、会社は「働けない」と扱えない場合があるということです。

実際に、次のように裁判例でも、医学的根拠に基づかずに労働者が働けないと判断したことが違法となっています。

(参考裁判例:東京地裁令和2年3月25日判決・労働判例1247号76頁)

使用者Yは、傷病により休職していた労働者Xが「左上下肢の神経症状が認められ、リハビリが必要であるものの、軽作業であれば就業は可能、ただし階段昇降には手すりが必要」との趣旨の診断書を提出した際に、治癒の見込みが立たないので更に休職とする旨を通知した事案。

裁判所は、会社Yが、診断書の提出を受けた後、具体的な業務内容の検討に際し、原告(労働者X)の体調を確認するなどしておらず、また、産業医に相談することもなく、原告に担当させる業務ができないと判断したことは、「原告の復職判断に際しての被告の上記配慮義務は十分に尽くされたものとはいえない。」として、休職命令を違法としました。

「配慮」を無視したことが安全配慮義務違反となるケース

会社は、従業員が生命・身体の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。

このため、従業員が自ら不調を申告して配慮を求めているのに、何も確認しないまま従前どおりの業務を続けさせ、その結果健康状態が悪化した場合には、会社の責任が問われやすくなると考えられます。

例えば、診断書に「重量物の運搬を控えること」「夜勤は不可」などの具体的な就業制限が書かれているのに、従来どおりの業務を命じ続けるようなケースです。

また、長時間勤務などが生じている場合も同様です。

健康を理由とする「配慮」の要求への対応は

配慮の申し入れへの対応フロー

健康を理由とする配慮の申し入れには、次の順序で対応します。

配慮を要する根拠の確認

まず、配慮が必要であることの根拠として、診断書の提出を求めます。

診断書では、次の点を確認します。

  • ☐ 病名・症状
  • ☐ 就業上の制限の具体的な内容(何ができて、何ができないか)
  • ☐ 配慮が必要な期間(いつまでか、いつ見直すか)
  • ☐ 通院の頻度

これらの診断書等の情報をもとに、配慮が必要な状況にあるかを医学的に確認します。

弁護士のコメント

特に重要なのは、期間と具体的な制限内容です。

「本人の負荷が低い業務が望ましい」「業務の軽減を要する」といった抽象的な記載だけでは、会社はどの業務なら可能かを判断できません。

このような場合は、主治医への書面照会や、本人同席のうえでの主治医との面談により、具体的に何ができるかを確認します。

注意事項

災害を発生させうるような働かせ方をしている場合には、この配慮は必須です。

例えば、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められるようなケースでは、時間外労働の削減は不可欠となります。

また、パワーハラスメント等が生じているケースも同様です。

配慮を実現する業務の有無を確認

次に、診断書で確認できた制限の範囲内で働ける業務が、社内に現実的に存在するかを確認します。

検討にあたっては、先ほどの最高裁の判断に沿って、本人の能力・経験・地位、会社の規模・業種、これまでの配置・異動の実情を踏まえます。検討事項は次のとおりです。

  • 雇用契約書や求人票で職種が限定されているか
  • 待遇とのバランスは取れているか(当該役職や職分に応じた配慮としてありうるか)
  • 労働時間は適切か

なお、労働時間の短縮は、フルタイムの労働契約を前提とすると、基本的には契約上現実的に配置可能な範囲を超えるものと当事務所では考えています。そのため、時短勤務の配慮に応じる必要性は乏しいと考えています。

ただし、育児・介護や障害を理由とする場合は、別途法律上の制度がありますので、記事末尾の注記をご確認ください。

当事務所が力になれること

当事務所では、次のようなサポートを行っています。

  • 提出された診断書の内容を読み解き、会社が追加で確認すべき点を整理します。
  • 主治医への照会書(質問事項)や、本人の同意書を作成します。
  • 社内の業務の洗い出しと、「現実的に配置可能か」の検討を一緒に行い、検討記録を整えます。

配慮ができる場合は個別契約の締結

配慮できる業務がある場合は、事案によっては本人と個別の合意書を締結します。

合意書には、次の点を記載します。

  • 配慮の内容(担当業務、免除する業務)
  • 配慮の期間と見直しの時期
  • 期間満了時の扱い(診断書による再確認)
  • 賃金・役職の変更の有無と内容

賃金の引下げについて、最高裁は、従業員が同意したという事実だけでなく、その同意が自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという観点から判断するとしています(山梨県民信用組合事件・最高裁平成28年2月19日判決)。そのため、不利益の内容、同意に至った経緯、事前の説明の内容などを書き込むことになります。

当事務所が力になれること

  • 配慮の内容・期間・賃金を定める合意書を作成します。
  • 基本給を下げる場合の根拠(業務・責任の変化)の整理と、書面への記載方法を助言します。
  • 本人への説明の順序や説明資料の作成を支援します。

特に賃金や役職を引き下げる場合には、引き下げの理由の説明等が不足していると、後から、同意が無効であったと法的に評価される原因になります。トラブルを防ぐためには適切な同意書作成が欠かせません。

配慮が不可の場合にはその理由の説明

検討の結果、求められる水準の配慮を実現できる業務がない場合は、その理由を本人に説明します。

説明は口頭だけでなく、説明資料を作成して交付してください。

資料には、検討した業務と、それぞれの業務が配慮の条件を満たさない理由を記載します。

先ほどの「配慮を実現する業務の有無を確認」で作成した検討記録が、そのまま土台になります。

そのうえで、診断書に照らして通常の業務が可能であれば、通常どおりの業務を指示します。

通常の業務も医学的に困難な場合は、就業規則の休職事由を確認したうえで、休職を検討します。

なお、長時間労働や、診断書の就業制限と明らかに矛盾する業務など、安全配慮義務に違反するような状態がある場合は、配慮の可否とは別に是正が必要です。

当事務所が力になれること

  • 配慮できない理由を説明する資料を作成します。
  • 説明の場での言い方や、説明後の本人の反応に応じた対応を助言します。
  • 休職を検討する場合の就業規則の確認と、休職命令書の作成を支援します。

継続的なご相談は顧問弁護士サービスをご検討ください

配慮の申し入れへの対応は、単発の相談だけでなく、日頃から気軽に相談できる体制があることで、初動対応のスピードと質が大きく変わります。稲田経営法律事務所の顧問弁護士サービスでは、労務トラブル全般について継続的にサポートします。

出典

  • 最高裁平成10年4月9日判決(片山組事件)集民188号1頁、労働判例736号15頁
  • 東京地裁令和2年3月25日判決(東菱薬品工業事件)労働判例1247号76頁
  • 最高裁平成12年3月24日判決(電通事件)民集54巻3号1155頁
  • 最高裁平成26年3月24日判決(東芝事件)集民246号89頁、労働判例1094号22頁
  • 最高裁平成28年2月19日判決(山梨県民信用組合事件)民集70巻2号123頁

※ 育児・介護休業法や障害者雇用促進法など、育児・介護や障害を理由とする場合は、本記事とは別の法律上の制度に基づく対応が必要です。

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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