休職期間満了でもすぐに退職・解雇できない?復職時の軽易業務への配置と合理的配慮

休職・メンタル不調

大阪府・府警察本部長(休職期間満了)事件(大阪高裁令和7年10月8日判決)
掲載誌:労働判例1353号91頁(2026年7月15日号)

この記事からわかること
  • 休職期間満了時に必要な配置可能性の検討
  • 「軽易な業務」の考え方と合理的配慮の範囲
  • 主治医の意見と異なる対応をする際の注意点

1 事案の概要

原告は大阪府警察の警察官で、交通事故により頚髄中心性損傷の傷害を負い、平成27年6月から分限休職となっていました。

その後も症状が残ったものの、平成29年5月、主治医は「これ以上の改善は見込めないが、自宅療養は不要であり、本人の状態に合わせて職場環境を調整できれば復職可能」と説明しました。具体的には、親指に刺激のある作業を避けること、自動車通勤が可能であればこれに配慮すること、投薬を継続することなどが示され、翌日の診断書にも「6月14日から体調が良ければ短時間軽作業就労可能。ただし夜間勤務は禁止」と記載されました。

しかし、警察署長は原告の自動車運転には事故の危険があるとして、電車による通勤試行を指示しました。原告は電車内で他の乗客と接触して強い痛みを生じ、主治医から既存障害の急性増悪と診断され、その後も休職が更新されました。

最終的に、平成30年6月、復職不能として分限免職処分を受けたため、原告がその取消しを求めた事案です。

2 裁判所の判断

大阪高裁は、一審とは異なり、分限免職処分を違法として取り消しました。

裁判所は、主治医の診断内容から、通勤試行時点では、職場環境を調整し、親指に刺激のある作業を避け、自動車通勤に配慮すれば復職可能な状態にあったと認定しました。

また、原告は職種・業務が限定された職員ではなく、従前業務には復帰できなくても「より軽易な業務」に就くことができ、そのような復職を希望していたとして、大阪府警察には、障害者雇用促進法上の合理的配慮義務の一環として「現実に配置可能な業務」の有無を検討する義務があったとしました。

さらに、主治医から自動車通勤への配慮が具体的に示されていたにもかかわらず、署長が安全上の懸念を強調して十分な検討をせず電車通勤を求め、その結果、復職可能な程度まで回復していた原告の症状が悪化したことを重視しました。

その経過を十分考慮せず、その後の復職不能を理由に免職した判断は、考慮すべき事項を考慮しておらず、裁量権の行使を誤ったものと判断しています。

3 弁護士による裁判例の分析

「軽易な業務に就ける」だけで復職可能とは限らない

本判決は、原告が従前業務には復帰できなくても「より軽易な業務」に就くことができたとして、使用者には「現実に配置可能な業務」の有無を検討する義務があったとしました。

もっとも、この点はやや広く読まれている印象があります。片山組事件(最高裁平成10年4月9日判決)が示すように、従前業務以外への配置可能性は、「その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等」を踏まえて判断されるべきです。

そのため、「軽作業なら可能」という医学的評価だけで足りるのではなく、「地位」や「経験」「配置・異動の実情」等を踏まえた判断が欠かせません。合理的配慮も、軽易な業務を作る義務まではないと考えられます。本判決は、本当に現実に配置可能な業務があったのか、の検討が甘く、経営者側の弁護士としてはやや納得し難い点はあります。

本件では会社側の対応による症状悪化が重く見られた可能性がある

他方、本件には重要な特殊事情があります。主治医は、職場環境の調整、親指への刺激を避けること、自動車通勤への配慮などを具体的に示していました。それにもかかわらず、使用者は事故の危険があるとの独自判断から電車通勤を求め、その通勤試行中に原告の症状が急性増悪しました。

その後、悪化した状態を前提に休職が更新され、最終的に復職不能として免職されています。裁判所も、この経過を十分考慮しないまま処分した点を明示的に問題視しています。

そのため、本判決が使用者側の復職検討義務を比較的重く捉えた背景には、就労困難となった原因の一部を使用者自身が作ったと評価されたことが影響している可能性があります。

医学的意見と異なる措置を取るなら根拠を残す

企業実務では、主治医の意見に必ず従わなければならないわけではありません。

しかし、医師から具体的な配慮内容が示されているのに、会社がそれと異なる措置を取る場合には、産業医への相談や主治医への照会などにより、その合理性を医学的に確認しておくことが重要です。

特に、その措置によって症状が悪化すると、安全配慮義務違反だけでなく、その後の復職不能や休職期間満了退職の有効性判断でも会社が不利になる可能性があります。

本判決から得るべき実務上のポイントは、「軽作業を必ず用意すること」ではなく、現実に配置可能な業務を具体的に検討し、医学的意見と異なる対応をする場合には、その理由と検討過程を記録しておくことにあると考えます。

4 労働紛争に強い弁護士ができること

弁護士に相談すべきタイミング

退職を視野に入れている従業員から、「条件付きで復職可能」との診断書が出た段階では、弁護士と対応をするのが良いと考えます。

この場合、裁判例を踏まえた上で、①具体的な就業制限、②配置可能な業務、③必要な合理的配慮、④産業医等の意見、⑤本人との協議内容を整理し、対応を検討する必要が出るためです。

解雇・退職させる前にできること

診断書の記載が抽象的な場合には、本人の同意を得た上で主治医から意見を聴取し、どのような業務であれば可能なのか、勤務時間や通勤方法についてどのような制限が必要なのかを具体化します。

試し出勤や通勤試行を行う場合にも、症状を悪化させない方法になっているかを医学的な意見を踏まえて検討する必要があります。

また、従前業務への復帰が困難な場合には、社内の業務を具体的に洗い出し、本人の能力、経験、地位、会社における異動の実情などを踏まえて、現実に配置可能な業務が存在するかを検討します。

その結果、合理的な配慮を行っても配置できる業務が存在しないのであれば、その検討内容を本人に説明した上で、休職期間満了による退職だけを一方的に進めるのではなく、円満退職に向けた話し合いを行うことも重要な選択肢となります。

弁護士が早い段階から関与することで、復職判断から退職に至るまでの手続と記録を整理し、後の労働紛争のリスクを抑えることができます。

解雇・退職で紛争となった場合にできること

弁護士に依頼することで、会社の組織図、各部署の業務内容、人員配置、過去の異動実績、本人との面談記録や診断書などを整理し、「本当に現実的に配置可能な業務が存在したのか」という観点から具体的な反論を構築することができます。

その上で、労働審判や訴訟への対応だけでなく、解決金を含めた交渉も選択肢として検討し、会社にとって有利かつ早期の解決を目指します。

5 まとめ

休職期間満了による退職・解雇は、最終時点の就労能力だけではなく、そこに至るまで会社がどのような復職支援や合理的配慮を検討したのかも含めて争われる可能性があります。復職が難しいケースほど、早い段階から事実関係と医学的情報を整理し、慎重に手続を進めることが重要です

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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