取引先から苦情を受けた従業員を解雇できるか|解雇が無効とされた裁判例から学ぶ対策

懲戒処分
この記事の結論
  • 取引先から苦情を受け、担当変更や取引停止を求められた従業員であっても、それだけで解雇が有効になるわけではない。
  • 苦情の原因となった言動に至った経緯を本人から聴取し、指導について本人の納得・理解を図ったかがポイントとなる。
  • 対外業務から外すのであれば、休業命令ではなく配置転換を検討する。
  • 配置転換や懲戒処分といった解雇以外の手段を講じないまま解雇すると、「早計な判断」とされる。

はじめに

従業員の言動が原因で取引先から苦情が入ると、会社は取引関係の維持を最優先に動かざるを得ません。

とくに主要取引先から担当変更を求められた場合、その従業員に辞めてもらいたいと考えるのは自然なことです。

もっとも、取引先から苦情が入ったというだけでは、解雇は有効になりません。

今回は、取引先とのトラブルを理由とする解雇が問題となった裁判例をもとに、会社が解雇の前に何をしておくべきかを解説します。

裁判例の概要

裁判例の情報

東京地裁令和7年9月11日判決(労働経済判例速報2608号3頁)

事案の概要

会社Yは、特殊ゴム製品を海外のメーカーから仕入れて国内外に販売する会社です。

労働者Xは、派遣社員、有期雇用を経て平成30年から正社員となり、海外の取引先とのメールでのやり取りを中国語・英語・日本語で担当していました。

令和元年6月、Xは、インドの取引先E社の担当者に対し、「Is there no “Actions for Words” in INDIA?(インドには有言実行という言葉はないのですか)」と記載したメールを送信し、E社から激しい抗議を受け、担当から外されました。

これにもかかわらず、令和3年4月には、Xは、台湾の取引先G社に対し、Xの依頼した出荷手配が進まないことについて、G社の従業員には精神科の受診が必要な者がいるのではないか、対応が遅いなどと記載したメールを、社長らをccに入れずに送信しました。G社は、会社Yの売上の約7割を占める主要取引先です。

G社は会社Yに苦情を入れたため、会社Yは、Xを対外業務から外し、退職勧奨をしました。そうしたところ、Xは、会社Yに禁止されているにもかかわらず、G社に謝罪メールを送信しました。

これらの言動を理由に、会社Yは、Xを解雇しました。

解雇理由証明書には、E社・G社を含む6件の取引先とのトラブルが列挙されていました。

裁判所の判断結果

東京地裁は、解雇を無効と判断しました。

その結果、会社Yは、解雇後の未払賃金198万8030円(遅延損害金を含め209万7530円)の支払いを命じられました。

裁判所の判断

裁判所はまず、解雇理由として挙げられた6件のトラブルのうち4件(E社・G社以外の件)はそもそも解雇事由として検討の対象にならない旨を判断しました。

他方、E社・G社へのメールと、G社への連絡を禁じられた後のメール送信については、「本件解雇の解雇事由として、一定程度の重要性を持つもの」と認めています。

そのうえで、いずれのメールも相手方の対応遅延に起因しており、Xが以前から社内で相手方の問題点を指摘して改善を求めていたことから、「原告の責任感や職務熱心のあまりに及んだ行為と見る余地もあり」、会社Yは「当該メールを送信するに至った上記経緯等の事情について十分に聴取した上で改善を促すべきであった」としました。にもかかわらず、十分な聴取をしないまま担当から外したことについて、「被告の注意や指導についての原告の納得や理解を図る努力が不十分であった」と判断しています。

さらに、対外業務を任せられないのであれば国内業務のみを担当させる配置転換も可能だったとして、「配置転換による適正配置の努力や、懲戒処分によって原告に反省の機会を与えるなどの解雇以外の手段を講じる余地があったにもかかわらず、これらを講じることなく、原告に改善の余地がないと早計な判断を行い、本件解雇に至った」として、解雇を無効としました。

補足・支払額が8か月分にとどまった理由

本件で未払賃金が8か月分にとどまったのは、会社Yの対応によるものではありません。

Xは、解雇後に他社で働き始め、会社Yが労働委員会の手続で示した復職案に応答しないまま救済申立てを取り下げ、その後1年半以上、会社Yに何の連絡もしませんでした。裁判所は、救済申立てを取り下げた日の翌日に、Xが会社Yで働く意思を失ったと認定したのです。

こうした事情がなければ、解雇が無効とされた以上、判決までの約4年分の賃金の支払いが命じられることになります。

本判決からわかる対応のポイント

苦情の対象となった言動に至った経緯を本人から聴取する

本件でも、E社・G社のいずれについても、会社YはXから十分に事情を聴かないまま担当を外していました。

しかし、いずれも先に書類送付や出荷手配の遅れという相手方の事情があり、会社も、E社については対応が遅れがちなことを認識していました。

裁判所は、こうした経緯を聴取しないまま担当から外したことを問題視しています。

メールの内容自体が不適切であることは、裁判所も否定していません。問題は、なぜそのメールを送るに至ったかを会社が確認していなかった点です。

少なくとも弁明の機会を設けて、その言動の背景などを会社が確認した上で、処分が妥当かを判断するという手順を落とさないことが重要です。

弁護士のコメント

行為者の言い分を聞くという手続きは、法的な意味を有するにとどまりません。まず言い分を聞いた上で、その不満(本件であれば顧客の遅れ等)を受け止めつつ、言い回しに問題があると伝える方が、行為者の側も、問題意識を会社が理解していると受け止め、改善の意欲が高くなります。マネジメントの観点からも、まずは言い分を聞くプロセスを落とさないことが大切です。これが、裁判所の求める「被告の注意や指導についての原告の納得や理解を図る努力」となります。

担当を外すだけでなく、注意・指導と懲戒処分で改善の機会を与える

本件の会社Yは、苦情が入った後に注意はしていたものの、その対応の中心は担当を外すことでした。

担当を外すことは、取引先との関係を守るためには必要な対応です。しかし、それだけでは本人への指導になりません。

裁判所は、懲戒処分によって反省の機会を与えることを、解雇以外の手段の一つとして挙げています。

何が問題だったのか、今後どうすべきかを書面で伝え、本人の理解を確認したうえで、必要に応じて懲戒処分を行うことが、解雇に進む前の段階として求められます。

弁護士のコメント

本件の場合、E社の件の時点で、会社が本人から言い分を聴取し、そのことを踏まえつつも、人種差別にあたる言動は不適切であることを理由に軽微な懲戒処分(譴責・短期間の出勤停止など)を行っていれば、G社への言動を理由とする解雇は有効になっていた可能性もあると考えます。実際に、東京地裁平成11年5月14日判決では、具体的な言動を指摘しての注意指導等を繰り返しても、顧客への対応が改まらなかったことを理由に、解雇が有効となっています。言い分を聞き、軽微な懲戒処分から行うことが、問題発言を繰り返す従業員の対応の基本となります。

対外業務から外すなら、休業命令ではなく配置転換を検討する

主要取引先との関係を守るため、本人を対外業務から外す判断自体は合理的です。

しかし本件では、国内業務のみを担当させる配置転換が可能だったにもかかわらず、会社Yは即座に休業命令を発令し、社員証まで返却させました。

裁判所は、休業命令が、Xが裁判所での解決を求める発言をしたことを一つのきっかけとしていたことも踏まえ、Xを退職に追い込む意図がうかがえるとし、休業命令の発令と更新を不法行為と判断しました。

対外業務から外すことと、職場から排除することは別の問題です。

弁護士のコメント

裁判所の判断の中で、国内業務を行わせれば良いとの判断には疑問があるところです。本件の場合、顧客の属性を変えれば暴言が収まるという関係にはないためです。ただ、裁判所の考え方を踏まえるならば、しっかりと懲戒処分をして、顧客の態度に問題があっても暴言を吐いてはいけない旨を指導した上で、より比重の低い国内業務に回し、そこでも問題を起こすとなれば、解雇を検討するというプロセスをとることになります。

解雇理由には、特定でき、かつ最近の事実を挙げる

会社Yは解雇理由証明書に6件のトラブルを列挙しましたが、裁判所が解雇事由として重要性を認めたのは、E社・G社の件のみでした。

具体的な問題行為が立証できない件、故意ではない一度きりのミス、3年以上前の非正社員時代の件は、いずれも解雇事由から外されています。

件数を多く並べても、立証できない事実や古い事実は解雇の理由になりません。

苦情が入った時点で、日時・相手方・苦情の内容・会社の対応を記録しておくことが必要です。

弁護士に相談すべきタイミング

ご相談いただきたいのは、取引先から担当変更や取引停止を求められた段階です。

この段階であれば、本人からの聴取の方法、指導の内容、配置転換の可否を整理したうえで、次に同様の苦情が生じた場合に解雇に進めるかどうかの見通しを立てることができます。

本件のように、休業命令や退職勧奨、団体交渉への対応を重ねた後では、それ自体が不法行為と評価されるおそれがあります。

弁護士はどのように対応するのか

本件のようなご相談の場合、まずは過去の言動の記録を確認します。

また、現時点で出ている言い分を確認します。

言い分がまだ出ていない場合には、言い分確認の面談の台本を作成し、言い分の確認を行います。

その上で、言動や言い分を元に、業務指示書や厳重注意書・懲戒処分通知書などを作成します。

その書面の中では、どの言動が問題であったか、どのような背景であったかも踏まえて、その処分や指示が妥当であるかを指摘します。

このような書面を元に、面談を行い、指導等を行います。

その後も改善がない場合には、懲戒処分を行ったり、配置転換を命じたりするために、必要となる規則の確認、書面の作成、実際に伝達する際の台本の準備などを行います。

弁護士に依頼するメリットは

これらの対応を弁護士がサポートすることで、問題社員にパワハラ等と言われることなく、かつ、顧客とのトラブルを防ぐために必要十分な指導を行うことができます。

その結果、顧客からの苦情や顧客の離脱による損失を防ぐとともに、経営者が問題社員の対応に悩む時間をなくし、本業に専念することができます。

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