休職中にポジションが廃止された場合の解雇はできるのか JPモルガン証券事件(東京地裁令和8年3月9日判決)

休職・メンタル不調

長期休職中に組織体制が変更され、復職時には従前のポジションがなくなっていた場合、会社は従業員を解雇できるのでしょうか。

最新の裁判例での判断内容と実務上の留意点を解説します。

事実関係の概要

原告は弁護士資格を有する企業内弁護士で、平成20年にJPモルガン証券へ入社し、その後、グループ内最高位の職位であるMD(マネージング・ディレクター)に昇格しました。解雇時の役職は取締役兼法務部長で、基本給は年額4100万円、現金賞与やRSUを含む年収は1億円前後でした。

原告は令和3年6月、適応障害と診断され長期傷病休暇に入りました。その休職中、会社では原告の下位職に当たるED2名が法務部の共同部長を務める体制に変更され、この体制で業務に支障がなかったことから、原告が復職を希望する頃までに法務部のMDポジションは廃止されていました。

令和4年9月、原告が復職の意向を伝えた後、会社との間で復職に向けた話合いが始まりました。同年11月の面談では、会社から法務部長としての復職は困難であり、別のポジションを探しているものの現時点では見つかっていないことが説明され、原告も他のポジションを探してほしいとの意向を示しました。

その後、復職先探しを主導していた米国本社幹部が来日し、同年12月9日に原告との面談を行うことが予定されました。しかし、原告は面談場所や法務部員との面談設定などを求めた上で、この面談を断りました。会社側はメールや電話で複数回、面談への出席を求めましたが、原告は応答せず、面談は実現しませんでした。さらに会社は翌週に改めて話合いの機会を設けようとしましたが、原告は日程を回答せず、この面談も実現しませんでした。

会社は同年12月、退職日までの給与、5000万円を超える特別退職金、規程退職金等を含む合計約8762万円の支払と、未確定RSUを失効させないことを内容とする合意退職を提案しました。その後も翌年1月、2月に面談を重ねましたが合意には至らず、会社は令和5年2月20日、同年5月21日付で原告を解雇しました。

裁判所の判断

裁判所は、本件解雇について、典型的な整理解雇ではないものの、労働者に帰責事由のない解雇であることから、整理解雇の4要素を参照しつつ、本件特有の事情を踏まえて解雇の有効性を判断しました。

人員削減の必要性

原告の休職中に、法務部長の役割を下位職の2名が共同で分担する体制が構築され、原告が復職を希望した時点では、従前の法務部長として復職する現実的可能性はなくなっていたとしました。また、原告が最高位のMDで、取締役兼法務部長として高額の待遇を受けていたことから、その地位・待遇に見合う役職がなければ高待遇の余剰人員を抱え続けることになるとして、解雇回避努力を尽くすことを前提に人員削減の必要性を認めました。

解雇回避努力

会社が日本法人内だけでなく海外のグループ部門まで代替ポジションを探索していたことや、復職先探しを主導した米国本社幹部との面談を原告自身が拒否したことを重視し、約3か月で探索を終了していても不十分とはいえないと判断しました。また、原告から職位を下げてでも復職したいとの申出がなかったことなどから、会社が下位の職位まで含めて配置先を探索しなかったことも、解雇回避努力を否定する事情とはならないとしました。

手続の相当性

会社が一足飛びに解雇したのではなく、約8762万円の支払等を内容とする退職勧奨を行い、その後も話合いを続けたことについて、裁判所は解雇手続の相当性を補強する事情と評価しました。

判決のまとめ

判決は、「被告は、原告の解雇以外の対応策を相応に検討し、原告に対する説明等の機会を設けるために相当の努力をした上、退職勧奨に当たっては相当程度の退職条件を示し、原告との話合いを経たものの合意に至らず、原告を解雇する以外に現実的な対応策がないと判断して本件解雇に及んだ」と評価し、原告の高い専門性、地位、待遇等も総合して、本件解雇は客観的に合理的で、社会通念上相当性を欠くものでもなく、解雇権の濫用には当たらないと判断しました。

弁護士による裁判例の分析

本判決は、長期間の休職中に組織体制が変更され、休職前の部署やポジションがなくなった場合の解雇の可否を考える上で、実務上参考になる裁判例です。

従業員が長期間休職している間も会社の業務を止めることはできないため、他の従業員に業務を分担させたり、組織を再編したりした結果、復職時には従前のポジションがなくなっているというケースは珍しくありません。本判決は、このような場合でも、他に適切な配置先がなく、会社が相応の解雇回避努力を尽くしているのであれば、解雇が認められ得ることを示した点で参考になります。

本件は「高位・高待遇の専門職」であった点が特徴

もっとも、本件で原告は、取締役兼法務部長であり、グループ内最高位のMDでした。基本給は年額4100万円、年収は1億円前後で、APACの法務部門でMDの職位にある従業員も原告を含め11名にすぎませんでした。

このような高度専門職・高位・高待遇の従業員については、同等の配置先そのものが極めて限定されます。裁判所も、原告の専門性、職位、待遇に適合し、実際に配置可能なポジションを探索したり、新設したりすることが困難である点を重視しています。

原告側の協議姿勢も判断に影響

また、本件では会社側が復職に向けた協議の機会を複数回設けていた一方で、原告が重要な面談を拒否し、その後の再度の面談調整にも応じなかったという事情がありました。さらに、会社から職位を下げた復職案は提示されていませんでしたが、原告自身も職位を下げてでも復職したいとの申出をしていませんでした。裁判所は、こうした事情を踏まえ、会社に対して下位職まで含めて配置先を探索することを要求しませんでした。

弁護士のコメント

いわゆる片山組事件(最高裁平成10年4月9日判決)でも配置される現実的可能性があると認められる他の業務を考えるにあたって「その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等」を考慮しています。特に「地位」の代表である賃金額に見合った仕事があるかというポイントは極めて重要です。

一般企業の場合に解雇回避が厳格なのは、企業には配置を変える広い人事権があるという考え方の他に、賃金が突出して高額ではないためポジションの変更も地位からすれば不可能ではないという価値判断が入っていると考えます。

反対に、待遇が突出している等の主張ができるケースでは解雇回避努力も限定的になると考えます。

高額な退職条件を提示して協議したことも重要

会社は、代替ポジションの探索が実らなかった後、約8762万円の支払や未確定RSUの維持を内容とする退職条件を提示しています。裁判所は、相当程度配慮された条件を提示し、直ちに解雇するのではなく退職勧奨という段階を経たことを、手続の相当性を補強する事情として評価しました。

一般の従業員にそのまま当てはめることはできない

したがって、本判決から「休職中に元のポジションがなくなれば解雇できる」と一般化することはできません。

例えば、一般的な賃金・職位の従業員で、他部署への配置転換や、一定の職務・待遇の変更による雇用継続が現実的に可能であるにもかかわらず、会社が十分な検討をせず解雇した場合には、解雇回避努力が不十分として解雇が無効と判断される可能性があります。

企業としては、休職者の従前の部署やポジションがなくなった場合であっても、当然に解雇できると考えるのではなく、従前職への復帰可能性、他部署・他職種への配置可能性、職位や賃金を変更した上での雇用継続可能性、本人との協議経過、退職勧奨を含む解雇以外の選択肢を具体的に検討する必要があります。どこまでの解雇回避努力が必要かは、従業員の職種、専門性、職位、待遇、会社の規模、配置可能なポジションの有無などによって異なります。休職中にポジションが消滅したという一事だけで解雇の有効性が決まるわけではなく、個別の事案に応じた慎重な分析が欠かせません。

裁判例

JPモルガン証券事件・東京地方裁判所令和8年3月9日判決(労働判例1354号15頁以下)

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