Q 取引先から苦情が多い従業員への対応ポイントは?

問題社員

1 はじめに

  • 取引先や顧客とトラブルを起こす従業員がいる
  • 従業員の対応を理由に取引の打ち切りを示唆された

カスタマーハラスメント(顧客からのハラスメント)が問題となる一方で、顧客対応に問題のある従業員も経営者を悩ませる問題です。

今回は、顧客対応に問題のある従業員の対応の注意点と対応策を解説します。

2 注意すべき事項――経営者が踏みやすい4つの落とし穴

以下の4点は、当職が相談を受ける中で会社側が特に引っかかりやすいポイントです。

落とし穴① 苦情の事実をそのまま鵜呑みにして処分してしまう

取引先から「あの人の対応はひどい」という申し入れがあった場合、その言葉をそのまま証拠として処分に踏み切ることは危険です。苦情の内容が従業員の言動に主に起因しているかどうかは、別途確認が必要です。

実際、「クレームが来た」という事実だけでは解雇の理由になりません。クレームが従業員の不当な言動によるものだと裏付けられるかが解雇の可否を左右します。

苦情の原因が従業員にあるとまでは言えないとして解雇が無効(東京地判平成25年11月21日)

労働者Xは、自らの見解を強く主張して他者を不快にさせる傾向があり、現に4つの案件の関係者から、Y社に対して、労働者Xの態度に関するクレームが生じた事案。Y社はクレーム等を理由に労働者Xを解雇しました。 裁判所は、労働者Xの言動が主たる理由となって交渉や事業が頓挫したとは言えないことや、クレーム内容は交渉の中でのやり取りであり、明らかに労働者Xに非があるとまでは言えないこと等から、解雇は客観的合理性を欠くとして無効となっています。この事案からも、クレームがあったことそのもののみならず、そのクレームの原因や背景事情から明らかに労働者に非があるといえる裏どりが重要であることがわかります。

落とし穴② 従業員本人から事情を聴かずに処分してしまう

苦情を受けると、「本人も悪いに決まっている」と決めつけて処分に踏み切るケースがあります。しかし取引先側に対応遅延などの落ち度があった場合には、従業員にも酌量すべき事情が認められることがあります。

これを怠ると「酌量すべき事情を考慮しなかった」として処分の合理性が否定されます。苦情があった場合は、必ず本人から事情を聴取し、その記録を書面に残してください。

人種差別的メールを送った従業員への解雇が無効に・200万円超の支払命令(東京地裁令和7年9月11日)

【事案】 ゴム商社に勤務する従業員が3年間で国内外6社から苦情を発生。「インド人に有言実行はないのか」という人種差別的英文メールや「精神科の受診が必要では」という侮辱的メールを取引先に送信。会社は退職勧奨・団体交渉後に解雇。

【裁判所の判断】 言動の問題性は認めつつも、①取引先側の対応遅延が発端であり従業員にも酌量すべき事情があった、②会社が苦情のたびに本人の言い分を十分に聴取しないまま担当から外した、③配置転換や懲戒処分による段階的対応を検討しなかった――として解雇を無効と判断。

【会社の損害】 就労意思が喪失した日(解雇から約8か月後)までの未払賃金として200万円超の支払いが命じられた。

【教訓】 人種差別的表現という悪質性が極めて高い言動があっても、本人聴取と段階的対応を欠くと解雇が無効になる。

落とし穴③ 指導が抽象的で「指導した」という記録が残らない

「態度を改めてください」「苦情が出ないようにしてください」という口頭の注意だけでは、指導の具体的な内容が残りません。裁判所が解雇の有効性を判断する際、「会社が具体的な改善指導を継続していたか」が重要な判断要素になります。

前掲の令和7年判決が無効になった一因は、会社が「納得と理解を図る努力が不十分だった」と評価されたことにあります。

落とし穴④ 段階的対応を経ずにいきなり解雇・懲戒解雇してしまう

「苦情が来た=即解雇」という発想は、裁判所から「解雇権の濫用」と評価されます。配置転換・懲戒処分などの代替手段を検討・実施したかどうかが、解雇の合理性を左右する重要な要素です。

一方で、4年以上にわたって具体的な注意・指導を繰り返し、配置転換を経てもなお改善がなかった場合には懲戒解雇が有効とされた裁判例もあります。

4年以上の段階的指導・複数回の配置転換を経た懲戒解雇が有効(東京地判平成11年5月14日・カルティエジャパン事件)

【事案】 伊勢丹・三越の複数店舗から担当変更を再三要請された従業員に対し、会社が4年以上にわたって具体的な注意・指導を繰り返し、新宿店→銀座店→本社営業部と複数回の配置転換を行ってもなお改善がなかったため懲戒解雇。

【裁判所の判断】 ブランドイメージを損ねる著しく不適切な接客態度が具体的事実として認定。度重なる注意にもかかわらず長期間にわたって繰り返し問題を起こし、改善の見込みがないとして懲戒解雇を有効とした。

【教訓】 指導の具体性・継続性・記録の有無が解雇の可否を分ける。段階的な対応の積み重ねが最終的な解雇を法的に支える。

3 どのような対応をとるべきか

上記の落とし穴を踏まえた上で、会社が取るべき実務対応の大枠を4つのステップで整理します。

ステップ① 事実の確認(取引先・本人の双方から)

苦情を受けたら、まず事実関係を客観的に確認します。「態度が悪い」という抽象的な把握にとどまらず、いつ・どこで・何があったかを具体的に記録してください。

  • 取引先から聴取すること:具体的な言動の内容・日時・頻度・他スタッフとの関係、担当変更・取引停止の要求の有無
  • 従業員本人から聴取すること:問題とされた言動の背景・取引先側の対応状況・本人の認識と言い分
  • 聴取の結果は書面に記録し、可能であれば従業員に確認させた上で保管する

なお、取引先に落ち度があった場合でも、従業員の言動が許容される範囲を超えていれば、その点は別途問題として対処すべきです。「相手に落ち度があったから自分の言動は問題ない」という誤った認識を放置することは、後のより深刻なトラブルを招きます。

ステップ② 具体的な指導と記録の積み重ね

事実確認を経たら、具体的な指導を書面で行います。「態度を改善してください」という抽象的な指示では不十分です。

  • 指導書には「○月○日、○○社の担当者に対して〜という言動をしたことは、業務上の礼節を欠き不適切である」という具体的な事実を記載する
  • 改善方法を明示する(「今後は○○のような対応をすること」)
  • 指導に対する従業員の反応(反省の有無・反抗的な態度)も記録に残す
  • 指導書は本人に交付し、受領印または受領を確認したメール等を保管する

弁護士のコメント

指導への反抗的な態度も記録すべき重要な事実です。改善可能性がなかった根拠として後の処分を支えます。また、指導にもかかわらず同種の問題が再発した場合はその記録も残してください。

ステップ③ 段階的な懲戒処分

指導を重ねても改善が見られない場合は、段階的な懲戒処分に移行します。いきなり懲戒解雇・解雇に踏み切ることは避けてください。

  1. 書面による厳重注意(指導書の延長として)
  2. けん責・減給などの軽微な懲戒処分
  3. 出勤停止の懲戒処分
  4. 配置転換(国内業務のみ・取引先との接点がない部署など)の検討
  5. 退職勧奨・懲戒解雇

量刑判断では、取引先との関係悪化や取引停止など会社に具体的な損害が生じているか、人種差別的言動など悪質性が高いか、指導後も改善なく繰り返しているか、指示に反して直接連絡するなど不服従があるかという点が、処分を重くする方向に働きます。

弁護士のコメント

令和7年判決の事案は、人種差別的表現・侮辱的表現・直接連絡禁止への違反という複数の重大な問題があったにもかかわらず、段階的対応を経なかったために解雇が無効となりました。悪質な事案であっても、プロセスを欠かさないことが必要です。

ステップ④ 就業規則の整備と法改正への対応

令和8年10月施行の労働施策総合推進法第33条により、事業主は取引先等からの社会通念上許容される範囲を超えた言動から従業員を保護する義務が明文化されました(カスタマーハラスメント対策の義務化)。

その指針では「職場におけるカスタマーハラスメントが生じた事実が確認できた場合、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましい」とされており、取引先への不当な言動に対して会社が適切に対処することへの根拠が法律上も整備されています。

これを機に、就業規則に以下の規定を明記しておくことで、懲戒処分の根拠を明確化できます。

  • 取引先等への人種差別的言動・侮辱的表現の禁止
  • 会社の指示に反した取引先への直接連絡の禁止
  • 取引先との折衝における礼節・誠実対応の義務

なお、懲戒処分の事実を苦情を申し入れた取引先に伝えること自体は、必要最小限の内容にとどめ従業員の名誉への配慮がある場合には許容されます。謝罪とあわせて「適切な措置を講じた」旨と再発防止策を伝えることは、取引関係の修復としても有効です。

4 弁護士に依頼することでどのようなメリットがあるか

取引先からの苦情に対する対応は、事実確認から指導・懲戒処分・退職交渉まで、法律的な判断が求められる場面が多くあります。しかも、対応を後回しにすると取引の解消・信頼の毀損という取り返しのつかない損害が生じます。当事務所では次のような形でサポートしています。

対応戦略の構築

どの段階でどのような措置を取るべきかを、裁判例と事案の事実関係を踏まえて整理します。「今すぐ解雇できるか」「段階的に処分を重ねるべきか」「配置転換を先にすべきか」という判断は、法的見通しを持った上で行う必要があります。

指導書・懲戒処分通知書などの書類作成

指導書・懲戒処分通知書・退職合意書など、対応の各段階で必要となる書類を作成します。書類の文言が「具体性がない」「根拠条文が不明確」という理由で後から処分の有効性が争われることがあります。経験を踏まえた文案が会社側のリスクを低減します。

就業規則の整備

懲戒事由の規定・カスタマーハラスメント対策の規定・取引先対応の行動規範など、今後のトラブルに備えた就業規則の整備を支援します。令和8年10月施行のカスタマーハラスメント対策義務化に対応した規定整備についても対応しています。

退職勧奨の面談への同席・代理

退職の話し合いに弁護士が同席または代理することで、「退職強要だった」という後からの主張を防ぎます。弁護士が関与することで従業員側も会社が本格的に動いていると認識し、交渉が進みやすくなることがあります。

監修弁護士の紹介

稲田拓真(岡山弁護士会)

岡山市に拠点を持つ「困った従業員・問題社員への対応」などの労働問題に強い弁護士。東京で4年以上、労働問題に対応し続けた経験を持つ。この経験や最新判例、人間心理の知識を生かし、迅速に解決策の提案と実行をサポート。「早々にご回答ありがとうございます」等の言葉をいただきながら、日々岡山の社長のために奔走している。

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