事業用の預金を財産分与の対象から外したい(個人事業主)

結論

個人事業主の事業用預金は、名義上は経営者のもの・屋号付きのものであっても、原則として財産分与の対象になり得ます。
対応するには、

①特有財産であること、

②事業の実態(配偶者の寄与が小さいこと)

③家計用口座との使い分けができていること

④経営者自身の技能・資格によって形成された財産であること

などの具体的な主張立証が欠かせません。


反論をしないと事業用の預金も財産分与の対象になりうる

離婚の財産分与にあたっては、夫・妻いずれかの名義の財産であっても、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産(共有財産)は分与の対象となります。

個人事業主の場合、法人と異なり事業主と経営者個人が同一の人格であるため、屋号のついた預金であっても、当然に事業主個人の財産として扱われ、財産分与の対象になり得ます。

事業用の口座が財産分与の対象になるデメリット

財産分与の対象となると、事業用の預金を含めた経営者の資産と配偶者の資産を合計し、2で割った金額から配偶者の資産額を控除した金額が、経営者から配偶者へ支払うべき分与額の目安となります。

たとえば、経営者名義の事業用預金3,000万円、個人用預金500万円、配偶者名義の預金200万円があるケースでは、単純計算では(3,000万円+500万円+200万円)÷2-200万円=1,650万円が分与額の目安となります。

この場合、経営者は事業用預金から財産分与のために1150万円以上の支払いが必要となり、事業の運営が困難になる危険が高まります。

事業用の預金は、事業の継続に直結する資金であるからこそ、分与対象から除外する・あるいは財産分与への影響を最小限にするための主張が重要になります。

弁護士のコメント

個人事業主ではなく株式会社などの法人の場合、会社の財産と経営者個人の財産は別人格であるため、この記事にあるような複雑な問題は生じにくくなります。

ただし、法人であっても会社のお金をプライベートで使うなど公私混同が目立つケースでは、法人格否認の法理により、個人事業主と同様に会社財産も財産分与の対象になるリスクがあります。

そのため、法人の経営者であっても、会社財産を守るための主張・立証は必要になります。

事業用の資産が特有財産であることを主張する必要がある

概要


婚姻前から個人事業の事業用資産を有しているケースでは、その資産が「特有財産」(夫婦の協力とは無関係に形成された財産)であることを主張します。

ただし、婚姻後に特有財産を運用して利益を得たケースや、その運用自体が生計の手段になっているケースでは、運用によって生じた利益は特有財産に当たらないとされる点に注意が必要です。

たとえば、大地主が賃料収入で生計を立てている場合、配偶者が専業主婦(主夫)であっても、その賃料収入は財産分与の対象になります。


そのため、事業用の資産と生計のための資産とが明確に区別されていることなどを主張・立証する必要があります。具体的には、事業用口座と家計用口座の通帳が異なることなどを資料で示します。

弁護士のコメント

婚姻前に取得した事業用不動産(土地・建物等)のローンを婚姻後に返済しているケースでは、当該不動産の価値のうち婚姻後の返済に対応する部分が財産分与の対象になり得ます。特有財産であることを主張する際は、取得時期だけでなく、その後のローン返済状況まで確認しておく必要があります。


事業の実態を具体的に主張する必要がある

概要

事業用預金が「夫婦の協力によって得られたものではない」ことを具体的に主張・立証する必要がある場合もあります。

たとえば、配偶者が業務に一切関与していないケースや、青色事業専従者ではあるものの業務への寄与が極めて低いことが裏付けられるケースでは、このような主張を行います。

また、個人事業であっても従業員数が多いなど事業として確立しているようなケースでは、預金が夫婦の協力によって得られたものではなく、事業そのもの(従業員の労働や取引先との関係等)によって得られたものであることを主張することになります。

家計用の支出との使い分けを主張する必要がある

概要

事業に関する預貯金と家計とが区分できていない場合、配偶者の業務への寄与が小さかったとしても、事業用の預金が事実上家計の一部であるとみなされ、全体として財産分与の対象になり得ます。

これを避けるためには、家計は家計用口座から拠出していること、家計用口座への入金額が一定であること、配偶者への給与(青色事業専従者給与)を原資として生活していることなどを、通帳の入出金履歴等の資料に基づいて示す必要があります。

弁護士のコメント

個人事業主の場合、代表者個人の家計用口座への入金額が月によって増減するだけでなく、家計から事業資金へ入金したり、経費で家計用の物品を購入したりするケースも珍しくありません。

日常的に資金を融通無碍に使っていると、離婚などのタイミングで事業用預金までまとめて分与対象とされ、不利になりかねません。

経営者の技能等によることを主張する必要がある

概要

特有財産が事業の原資となっているような場合には、その財産を分与対象に含めるとしても、特有財産の寄与が大きいことを主張し、財産分与の割合(寄与割合。通常は夫婦で1:1)を経営者側に有利に変更させることを目指します。

また、共有資産(家計)の原資が特有財産(婚姻前から保有していた株式など)の運用にあり、経営者自身が運用を行った反面で配偶者の寄与がほとんどないケースでも、寄与割合の変更が考えられます。

裁判例として、医師の資格を活用して財産分与対象の財産3億円を築いた事案において、寄与割合を経営者(医師)6、配偶者4と判断したものがあります(大阪高裁平成26年3月13日決定)。

弁護士のコメント

寄与割合の変更が認められるのは、経営者の才覚や資格等を活用して形成された財産が非常に多いケースです。

資格がなくても実現可能な程度の蓄財にとどまるケースでは、通常どおり1:1の割合になることが見込まれます。

「自分の力で稼いだ」という主観的な実感だけでは、寄与割合の変更は認められない点に注意が必要です。

まとめ

個人事業主の事業用預金は、屋号がついていても経営者個人の財産として扱われるため、何もしなければ財産分与の対象に含まれてしまいます。事業用預金を守るためには、

といった観点から、通帳の入出金履歴や確定申告書、青色事業専従者給与の支払状況など、具体的な資料に基づいた主張を組み立てる必要があります。

これらの主張は、離婚を切り出した後に慌てて準備しても間に合わないことが少なくありません。

事業用の資金管理に不安がある場合や、離婚を検討し始めた段階で、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

また、離婚を切り出された場合や財産分与が争点となっている場合には、経営者の離婚問題に力を入れている弁護士などに相談し、経営者の財産を残すための主張・立証が必要となります。

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